今夜も君を待っている
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別れ際に、連絡するからちゃんと返信しろよ!と言い放った彼は、宣言通りメッセージを寄越した。毎日、しかもおはようからおやすみまで。
…私もなんだかんだそれに返信しているし、だからこそやり取りが続いているんだから、何も言えないが。
「やっと学校終わった…」と送ればすぐに既読が付く。次にぽん、と表示されたメッセージには「おつかれ!俺も終わったー」という文字が。
マメだなぁと苦笑を漏らすも、指はスマホのキーボードを滑り文字を打ち込んでいく。
送信ボタンをタップし、帰り道を歩き始めた。音楽アプリをシャッフルすれば、イヤホンからひと昔前に流行ったシンガーソングライターの歌声が流れ出す。
少しいい気分で角を曲がった、そこには。
学生服姿の快斗が、いて。
思わず隠れてしまった。心臓の音がうるさい。
だって、こんな偶然…二度目とはいえ、突然すぎる。
こちらには気づいていない様子の彼は、誰かを待っているようで。
誰を待っているんだろう。
声をかけても、いいだろうか。
完全に舞い上がっていた心はしかし、次の瞬間に凍りつくこととなる。
「快斗、待った?」
「ったく…おせーぞ、青子」
快斗に駆け寄る、女の子がいたから。
鈍器で頭を殴られたような衝撃が走る。
上げた腕が急に重くなり、だらりと垂れる。今まさに彼の名前を呼ぼうとした口は開いたまま。
談笑しながら歩き去る仲良さげな二人の後ろ姿を、息を殺して見つめるしかなかった。
▽
そこからどうやって帰ったのか覚えていない。
気がついた時には、家の近くまで来ていた。
緩慢にイヤホンのボタンを押し音量を上げた。アプリはまだ同じアーティストの楽曲をシャッフルし続けている。
静かな住宅街の僅かな物音までもを音楽で遮断し、進行方向を変える。真っ直ぐ自宅に帰る気分には、なれなかった。
ぼーっと歩みを進めていれば、当然のように頭は快斗の隣にいた女の子のことを考え始める。
可愛かったな。眩しい笑顔っていうのはああいうのをいうんだろう。
逃避気味に堂々巡りを続ける思考。結論を出すことを拒み、先延ばしにしようとしてもそれは無駄なことで。
──あの子は快斗の彼女、なんだろうか。
至った執着点に、脳がぐらりと揺れた。思わずその場に立ち止まる。アスファルトを照らす斜陽がじりじりと影を長くさせていく。
私と彼の関係って、一体何なんだろう。
靄のように広がる不安。それが胸の奥を重くさせる。
一度思考の沼に嵌ってしまえば、抜け出せなくなって。無理やり歩みを進めようとするが、その足は鉛のように重い。
ぐるぐる、ぐるぐる。同じ疑問が何度も頭の中でまわる。
甘い夢から無理やり目覚めたかのような衝撃に、しばらく立ち尽くしていた。