今夜も君を待っている
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鋭い蹴りで無理やり大ホールの扉を開ける。
蝶番ごと壊れ一層派手な音を立てた木片には見向きもせず、息を整えていれば。
「やあやあお嬢さん。今回も私の方が一枚上手だったようですね」
真っ白いタキシードに身を包んだキッドが、今夜の獲物──大きく煌くサファイアの指輪を見せつけるように手を振る。
ぎらりと睨めば、彼はひょいと肩をすくめた。
頭髪の一部と目以外は男物のボディスーツと口布によって全て覆われており、声も中性的なものに変えているため性別はわからないはずなのに。彼はいつも私をお嬢さんと呼ぶ。それが不快で堪らない。
怪盗キッド──わざわざ予告状を送りつけ、集まった観客の前で目立つ容貌と鮮やかな手口でもって財宝を盗み出す。
あくまで目立たぬよう静かに盗みを働く、泥棒の私とは違う。
「毎回毎回人の獲物を狙うな!」
「嫌だなぁ、偶然ですよ」
「何が偶然だ、これで何度目だと思っている!?」
私がとある豪邸で盗みを働いた直後に、下見に来ていたキッドと退路で鉢合わせてからというものの。
目を付けられたのか何なのか、それから毎度のように現場で彼に出くわすようになった。
「いつもいつも邪魔ばかりしてっ、何が目的だ!」
月光の差し込むだだっ広いホールに、私の怒号が響く。しかしキッドはそれを気にもせず気障な笑みを浮かべるだけだ。
「あなたのその美しい瞳を拝見するため、ですよ」
「…はぁ?」
意味がわからない。説明しろと目線で促しても笑みを深くするだけで答えはない。
「あぁそれと、これは目当ての宝石ではなかったのでお譲りします」
「ふざけるな! 情けでもかけたつもりか?」
投げつけられたサファイアを片手で受け止める。いつの間に出したのやら、赤い薔薇が添えられていた。
どれだけ青筋を立てて怒ろうが、当の本人はどこ吹く風だ。
私に渡すぐらいなら最初から盗まなければいいだけの話。やはり嫌がらせか。
いつの間にか窓の側まで移動していたキッドが、シルクハットを被り直す。
「また、次の夜に」
月灯りに照らされて薄く微笑むキッドの顔があまりに神秘的で、美しくて。
「──っ、待」
一瞬の隙を突かれ、キッドに窓から飛び去られてしまった。
逃した、と舌打ちをする。
あぁ、あの余裕そうな笑みのど真ん中を拳銃でぶち抜いてしまいたい。
思わず見惚れてしまった自分ごと、だ。