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あの人の、声が好きだった。
目が覚めるように紅い髪も、長い睫毛に彩られたその目も、
あの声は未だ鮮明に、私の心を囚えて離さない。
瞑っていた目を開ける。広大な砂漠はいつも通り、熱い風が頬を撫でた。
あの人が、サソリ様がまだ砂隠れの里にいた頃。私はあの人の部下だった。彼が砂隠れを抜け、暁に入った後もその関係性は変わらず……密会を続け、情報を渡した。里に対する背信行為だ。バレれば拷問の末に殺されるのは目に見えていた。それでもあの人のために力を尽くした。
他にも何かお手伝いを、と申し出てもサソリ様は何もさせてくれなかった。それに不満を訴えれば甘い声で宥められる。その繰り返しだった。
空っぽの言葉に、それが嘘だと理解していながらも私は甘んじて受けた。
だってあの人の声が、何より好きだったから。
……そうやって自分を誤魔化した。寂しい心に気づかない振りをして。
年月が長いだけの薄っぺらい関係。利用されるだけの関係。
――あの人の、死に目にすら会えなかった。
第四次忍界大戦の混乱に乗じ、己を死亡したように見せかけて里を抜けた後も、つい砂隠れの里に立ち寄ってしまうのは……あの人がいた日々を想ってしまうため。
決して忘れられない、私には何もくれなかった、美しい……サソリ様。
「……ひどい人」
涙混じりの私の声は濁っていて汚い。一粒の雫が足元の砂に落ちたけれど、すぐに音もなく呑み込まれていった。
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