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うちはイタチが死んだ。
トビからそう話され、私は詰めていた息を吐いた。
森の奥にある崖。その下は海だ。イタチの二つの目はトビに渡し、木で組んだ台座の上に目蓋を閉じた遺体を乗せる。変わらず綺麗な顔を最後にひと撫でし、その上に幾つもの枯れ葉を被せてマッチでそっと火をつけた。燃え上がる炎を、私は近くの切り株に座ってトビは立ったまま見守る。
同じ木ノ葉の里出身だった私とイタチが、まさか里を抜けて所属した先……暁で再会することになるとは思ってもみなかった。
志村ダンゾウの側近だった私は、うちは一族滅亡の真実を知っている。だから彼には同情していた。最初はそれだけだった。
私は特殊な血継限界持ちだで、その能力を買われて暁の一員となったが、戦闘員ではない。だから基本的にアジトにいて、誰かと任務に行くことはない。イタチと接触するのはアジトの中でだけ。その数少ない機会を逃すまいと、積極的に話し掛けていたのを覚えている。
同情が親愛に変わったのはいつだろうか? 最初は冷たかったイタチの態度が軟化していくのは嬉しかったし、一緒にいるのは楽しかった。
だけれど、距離は近かった筈なのに……イタチの体が病魔に犯されていることには気づけなかった。医療忍者でもない私には手の施しようがなく、どうしようと涙する私をイタチは慰めてくれた。謝ってくれた。……そしてそれは、私が決して彼の一番にはなれないことを表していた。イタチの一番は、一番守るべきで愛おしくて大切に想っている相手は、彼を殺した彼の弟だから。
私は彼を、止められなかった。
火葬は火と共に在るうちは一族らしい。でも遺灰を納めるための墓は木ノ葉の里にしかない。イタチをここまで追い詰めた木ノ葉に。……それなら。
「約束通り、これは貰っていくわよ」
「ああ」
数刻経ち、日が暮れようとしていた。炭と灰だけになったそれを見下ろす。イタチは骨まで焼き尽くされた。残った遺灰を壺に集める。
遺体を悪用されないためここまで監視を続けていたトビは、もう用は終わったとばかりに私に背を向ける。これで私と彼らの関係も終わりだ。私はこの後、大戦が終わるまでどこかに身を隠しておく算段になっている。
私は途中で拾い上げたお陰で唯一無事だった髑髏を掲げる。イタチのそれは、白くて少しざらざらしていた。少し汚れてはいるが磨けば綺麗になるだろう。愛おしく思えててキスを落とす。
「狂っていると思うでしょう?」
トビの背中に投げ掛けた問い。答えは期待していなかった。けれど。
「イヤ……愛する人を失うその気持ちは、オレにも理解できる」
「……ありがとう」
意外にも賛同の声が返ってきて驚いた。彼も同じように愛する人を亡くしたことがあるのだろうか。仮面の下すら知らない共犯者にもう一度だけ視線を投げた。そこにはもう誰もいなかったけれど。
ああ、本当なら今すぐにでも木ノ葉の里へ復讐したい。上層部の老害共のその首を縊りたい。イタチを修羅の道へと堕とした奴等を――……だけれど私にその力はない。真実を教えられたイタチの弟と、トビ……いや、うちはマダラが起こさんとしている第四次忍界大戦に望みを懸けるだけだ。
崖を飛び下り、すぐ下の砂浜に立つ。太陽の残滓が水平線に滲んでいた。寄せては返す波は穏やかで、足を浸すと冷たかった。イタチの頭蓋を胸に抱いて足を進める。
「次は……次こそは、幸せに……」
呟いた声が震えた。
根の国へ下る。彼と共に。
木ノ葉に帰らせることは、できない。例えどれだけイタチがあの里を愛していようとも。
これは私の我儘だ。私には何もくれなかった男への意趣返し。
波に揺蕩い、私は目を瞑る。抱き締めた髑髏は小さくて、儚く、脆い。
ほら、これで……ずうっと一緒だ。
――凪いだ海は、人を一人呑み込んだとは思えないほど穏やかだった。
蛇足:
オビトは夢主と同期だったので面識がありました
夢主が死ぬとは思ってなくて、夢の世界でイタチと幸せになれよと思ってます
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