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※ 夢主がマダラ(オビト)に片想いしている描写有
好いている人がいる。想いを告げるつもりはない。
ただ好きなのだとほろ苦く笑うなまえに、ペインは自分が普段通りの無表情を保てているのかわからなくなった。
「本気、なんだな」
「うん。……やめた方がいいのは、わかってるんだけど」
それでも、人の想いというものは儘ならぬもので。自分の心だというのに、制御できない。
雨隠れの里、その建物の一室。開け放たれた窓の外は見慣れた雨模様。薄暗い室内にはペインとなまえの二人分の話し声が響くだけ。小南は所用があると“本体”の側を離れていたため、真実二人きりだった。
ペインは温度のない瞳でなまえ……数十年来の幼馴染みであり同胞でもある女を見つめる。思い詰めたようでいてどこか晴れやかな表情は、長い付き合いのなかでも初めて見るものだった。しかしその表情をさせる者、彼女の片恋の相手が……あのうちはマダラだというのは……。
ペインの複雑な心境を察したなまえは苦笑する。相談というより決意表明のつもりだった。恐らくは長期に渡るだろう戦いの。
「やっぱりそうなるよね……」
「……何故、あんな男を」
「うーん……なんでだろうね。気づいたら、好きになってたの」
はぐらかしている訳ではなく、本当にわからないという風に口にするなまえ。
ペインは眉をしかめる。そんな不確かな想いであの男に近づいて欲しくはなかった。あまりにも危険すぎるからだ。
伝えないとなまえは言っているが、もしその気持ちが気づかれてしまったら……マダラは確実になまえのことを利用しようとするだろう。
仲間を……幼馴染みを。大切な人を、危険に晒したくはなかった。鈍い痛みを肚の底に隠しながら、警告のため口を開く。
「なまえ……あの男は、」
「私だって! 最初は諦めようと思ってた。でも……でもね、できなくて」
ペインの言葉を遮り、震え声で独白するなまえ。それに気圧されたようにペインは口を閉ざした。
「だから、諦めるの、やめちゃった」
くしゃりとなまえの顔が歪む。泣き笑いのような表情が痛ましい。
ペインは意識しないままに持ち上げていた腕に気づいて力を抜く。重力に従った腕はだらりと体の横に垂れた。
(そうだ、なまえがあの男の危険性を理解していないはずがない……)
相手はあの“うちはマダラ”だということはなまえにとっても枷となっているらしい。ここまで思い悩んだのもそのせいだろう。
だがそれでも、と葛藤する心からペインは目を逸らした。
「小南は知っているのか」
「……ううん、言ってない」
「何故……」
苦言を呈する代わりに、もう一人の幼馴染みの名前を出すペイン。そうして返ってきた返答に再び眉をひそめる。自分に言ってあるのなら、当然彼女にも話しているはずだと勝手に考えていた。自分と同じように付き合いが長く、女性同士仲の良い彼女らのことだから……共有されているはずだと。だから彼の口をついて出たのは、当然の疑問だった。
そうして与えられる返答が、自身に衝撃をもたらすものだとは露にも思わずに。
「こんなこと話せるの、なが……ペインぐらいだから」
ペインは思わず瞠目してしまった。胸の奥が締め付けられて、先程までとはまた違う痛みが生まれる。
その時、開いていた窓から白い蝶の折り紙が舞い込んできた。なまえが人差し指を伸ばせばそこに止まった蝶。それを彼女は開いて読む。そこには小南からの指令が記されていたようで、任務か、と唇が呟きの形に動く。
「じゃ、私行くね。話聞いてくれて、ありがとう」
「……あぁ」
こちらを振り返ることはせず、なまえは部屋から出ていった。
その華奢な背中を眺めながら、一人残されたペインは詰めていた息を吐く。
“頼られて嬉しい”……素直にそう感じてしまうのは。叶わぬ恋に心を痛める彼女を抱き締めようとした腕が、自分の物じゃないと気づいて咄嗟にやめてしまうのは。
あの男ではなく、自分を。……その瞳に映して欲しいと願い焦がれてしまうのは。
何年経とうとも、諦められないのは――。
「……馬鹿だな」
オレも、お前も。
そう呟いたペインの……長門の声音にもまた、苦さが滲んでいた。
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