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「ああ、ここにいたんですね」
「……なまえか」
晴れ渡った空に入道雲が浮かび、そこへ吸い込まれるように煙が昇っていく。スタンド式の灰皿が設置されているだけの簡易的な喫煙所に佇む男へと声を掛ける。照りつける日差しが強いが、塔屋の陰になっているその場所ではさほど気にならないようだ。
爆発物を扱う仲間が一人いるため、暁アジト内は各自の自室(デイダラを除く)以外は禁煙だ。煙草を吸いたいなら自分の部屋か、アジト屋上の隅に設置されたこの喫煙所に来るしかない。
いつものマスクを外して、フェンスに寄り掛かり、煙草を手に煙を吐き出した彼……角都さんは、こちらを一瞥するとまた他所を向いてしまった。そんな彼の前に、本を一冊差し出す。
「これ。頼まれてた本、探しておきましたよ」
「……よく見つけられたな。八十年は前のものだぞ」
「木ノ葉の古書店にあったんです。時間はかかりましたけど……でも、見つかってよかった」
短くなった煙草を灰皿に投げ捨て、本を受け取った角都さんがこちらに視線を移す。それに笑みを返しながら、内心で嬉しくなった。
彼が私にこういった頼み事をするようになってしばらく経つ。苛立たせないようにタイミングや線引きには気を付けながら、根気よく話し掛け続けた甲斐があったというものだ。雑談に応じてくれたり、何かを頼まれたり……そんなささやかなことにも幸せを感じてしまう。
お金にならないことには興味がない角都さんと、こうして他愛もないことについて話せるだけで奇跡のようなものだ。……私が彼に少しでも益をもたらしていると、自惚れてもいいんだろうか。
「お前は……どうしてオレにそこまでする?」
「……それ、聞いちゃいます?」
新しい煙草に火をつけた角都さんが少し眉を顰めるから、もう一度笑ってみせた。
理由なんて決まっている。
――あなたのことが好きだから、それ以外ない。
だからといって、応えてもらおうなんてつもりはさらさらなかった。こうしているだけで十分……とは言わないが、過ぎた望みを抱いても辛いだけだ。
煙草を咥えた角都さんが息を吸い込めば、灯った火が緋色を強くする。口元に手をあてるその仕草さえ様になっていて格好良いなんて……ずるい。胸の高鳴りを誤魔化すようにそっと息を吐いた。
「フン……まあいい」
「っ、わ」
顔に煙草の煙を吹き掛けられる。けほけほと噎せていれば……今度は角都さんが笑った。
といっても満面の笑みなんかじゃなく、僅かに口端を吊り上げるようなものだけれど……初めて見たことに変わりはなくて。見惚れるより先に唖然としてしまった私をそのままに、角都さんは口を開く。
「今夜、部屋に来い」
細められた目。いつもは冷酷な光を放つ瞳のその奥に、確かに熱いものを感じて……喉が鳴った。
煙草を灰皿に捨て、角都さんが立ち去っていき……そこで私はその場に崩れ落ちた。
赤くなった頬がなかなか落ち着いてくれそうになくて、アジト内に戻ろうにも戻れない。冷たいコンクリートの床に座り込んだまま空を見上げる。憎たらしいほど蒼々とした空が、変わらず広がっていた。
角都誕でした
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