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春の優艶
薄桃色の花弁が寝転がった彼を撫でる。河川敷にぽつりぽつり並ぶ街灯が柔らかく桜並木を照らしていた。
土手の荒れた芝生の上で寝転がる男と、そんな彼に膝枕をしている私。剥き出しの臍をつつけばぴくりと反応するのが面白くて、くすくす笑った。
深く眠っているのか、彼が起きる気配はない。悪戯心からさらさらと滑るスカーレットに口づける。何度も何度も、慈しむように。
その太く逞しい腕が私を抱きすくめるまで、あと五秒。
夏の鬱屈
じりじりと肌を灼く日差し。滴る汗に溜息を吐いた。
どこまでも蒼く晴れ渡った空に、咲き誇る向日葵。幾千と並んだ花々を丘の上から見渡す。
隣に立った男は相変わらず無言で、なぜ私を連れてきたのか、その理由すら語る気はないようだ。
彼のルビーのように冷たい赤が、ぬるい風に揺らめいた。
秋のさやけさ
舞い落ちる落ち葉はこんなにも儚く切ない。先を歩く彼の人もまた、触れれば居なくなってしまいそうなほど。
一面の赤の中、浮き立つ黒と白のコントラストが眩しくて目を細めた。
彼の長い前髪が揺れる。紅葉にその緋色が融けてゆくようで。
――ああ、拐かされてしまう。
風が舞った後には、何も残らなかった。
冬の寂寥
一面の銀世界とはこの事を言うのだろう。思わず感嘆の息を漏らす。広々とした平野に分厚く積もった雪は、まだ誰もその足を踏み入れてはいないらしく、まっさらに輝いていた。
彼の腕を引いて、二人で雪原になだれ込む。さすがに怒られるかと顔色を窺うけれど、ため息を吐かれるだけで終わった。
私はこれ幸いと仰向けになり空を見上げる。舞い踊る無数の白。手を伸ばせど掴めないそれは、まるで。
ああ――雪に散った紅は、すべてを燃やし尽くしてしまうだろうか。
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