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カフェ・ド・マゴから街の雑踏を眺める。午後のやわらかな日差しとさわやかな秋風が頬を撫でるのが気持ちいい。
そっと髪を滑る指先の感触に目を細めた。視線を移せば露伴と視線が合う。
「何考えてたんだ、みょうじ」
「べっつにー。スケッチ終わったの?」
見せてとねだればスケッチブックが手渡される。そこには彼の緻密かつ力強い絵が紙の上で踊っていて、いつものことながら感心してしまう。よくあんなに素早く描けるものだ。
「すごいねぇ……あ」
ぺらぺらと捲っていると最後のページに辿り着く。
そこに描かれていたのは、私。先ほど考え事をしながら街を見つめていたその横顔を描かれていたようだ。
「これ……」
「よかったらやるよ」
「いいの? ありがと!」
子どものように喜ぶ私。
それを見て露伴が、あの露伴が。こともあろうに微笑んだ。
驚きすぎて、息が止まった。心臓に悪い。
「……露伴、そんな顔もできるんだ」
「は? ……惚れたか?」
「惚れてないデス」
「なんだ。つまらん」
鼻を鳴らす露伴。このやり取りも最近増えてきた気がする。
ハハハと笑っていれば、露伴が指を何度か曲げて顔を近づけろというサインをよこす。
素直に従えば、耳元に口を寄せられて。
「素直に愛を囁けばいいのかな? なまえ」
「っ!」
流石にこれには赤面してしまう。反則じゃないのかそれは。
露伴を睨めば、当の本人は意に反して少し照れた様子だった。慣れないことするからだ、ばーか。
きゅうきゅうと締め付けられる胸が痛くて、こっそり溜息をついた。
情熱的な言葉に籠る熱。普段の露伴らしからぬ姿。
全て――すべて、偽物だ。ずっと彼のことを見てきたんだから、それぐらいわかる。
あなたの甘くとろける瞳の先にある好奇心になんて、とっくにお見通し。
それでも。その妄語に乗ってもいいかな、なんて思ってしまう。我ながら馬鹿な女だ。けれど夢を見るぐらいは許して欲しい。
だから、このまま。泡沫の時に身を委ねていられるよう、嘘を吐いて騙し続けていて。
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