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ぽつ、と水滴が鼻先に当たる。それはみるみるうちに勢いを増し、土砂降りの雨へと変化した。
「ついてないですね」
「はぁ……通り雨だろうし、しばらくじっとしておくしかないね」
古びた東屋でカカシさんと二人、雨宿りをする。ここはどうやら大きな屋敷の庭だったようで、野生化した草花がそこかしこに咲き誇っていた。肝心の屋敷は倒壊したのか蔦に覆い隠されているのか、雨のせいで悪い視界では判別がつかなかった。
それにしても任務帰りでよかった。この雨の中駆けていくのは、中々大変だろうから。今回の任務は、砂隠れへ私とカカシさんのツーマンセルで密書運びというものだった。危惧していた襲撃なんかも特になく、よかったと胸を撫で下ろしていたところ、最後にこの雨だ。本当ついてないなぁ……と滝のように降る豪雨を眺める。
「ところでさ、その……考えてくれた?」
カカシさんがこちらに体を寄せてきて、肩が触れ合う。そろっと東屋の端の方に逃げようとすれば、腰に腕を回された。それはちょっとやそっとの抵抗じゃ逃れられないぐらいの力で。カカシさんの匂いが近くなって、体温まで感じられて。
「返事は焦らないって言ってたじゃないですか」
「だから待ったでしょ」
「まだ一日しか経ってません」
――昨日。私はこの人に告白された。
密書を渡し終えて帰路につく前夜、いやに重い雰囲気を醸し出すカカシさんに呼び出されて……夜、静寂に満ちた神秘的な砂漠で。あまりに深刻な表情だったから何事かと思って心構えをしていたのに、まさか告白とは思わなくて。呆ける私を見て、カカシさんは「返事はいつでもいいよ」と苦笑していた。
……そしてその様子は砂隠れの里の方々にも筒抜けだったらしく。次の日、風影様やそのご姉弟に微笑ましげな目で見られて、とっても恥ずかしかった。
「……セクハラですよ」
「嫌?」
その問いに言葉を詰まらせてしまう。
だって……嫌じゃないから。
黙って視線を逸らせば、カカシさんが視界の端で笑う。昨日と同じ、甘く優しい顔で。
「なにも私じゃなくても……」
「キミがいいんだ」
思ったより弱々しく響いた私の言葉は、真剣な声で打ち消された。思わずカカシさんを見上げれば、声と同じぐらい真摯な視線に貫かれる。
私じゃなくても、というのは卑下や謙遜ではなく事実だ。カカシさんがあらゆる綺麗どころから引く手あまたなのは知ってる。どうして私なんだろう、と思ってしまう。劣等感に苛まれ、手をぎゅっと握り締めた。
「もう一度言うよ。……キミが好きだ」
「っ、」
「付き合ってほしい」
「カカシ、さ……っ」
カカシさんはそんな私の心情なんてお見通しなのか、畳み掛けるように言葉を重ねる。
――苦しい。心臓の鼓動が止まない。顔だってきっと……いや、耳まで真っ赤になっているはずだ。
ああ、もういいかな……なんて思う。とりあえず今は、この気持ちだけあれば、それで。
だってもう、我慢できない。本当は私だって、ずっと。
「……わた、しも」
「本当?」
「わ、っ」
震える唇を何とか動かして、振り絞ることができたのはたった一言だけ。
その直後、喜色の滲んだ台詞と共に抱きすくめられ、顔にもっと熱が集まる。私より大きな体に包み込まれて、カカシさんの匂いと体温が、さっきよりずっと近くなった。……今度は首まで赤色に染まっているかもしれない。
「……あ」
照れから顔を逸らせば、東屋の外が目に止まる。
いつの間にか、あんなに酷かった雨は止んでいた。
カカシさんも同じように気づいたらしく、そっと抱擁から解放される。それに少し寂しさを覚えていたら。
「晴れたね……ホラ」
カカシさんが、にっこり笑って手を差し出してくれる。
私は今度こそ迷いなくその手を取って――雲の切れ間から射す光の中に一歩踏み出した。
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