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カーテンの隙間から射し込む光が眩しくて目を覚ました。同時に酷い頭痛に襲われ、顔を顰める。昨日酒を飲みすぎたのが原因だろう。暁内で定期的に開催される飲み会後は毎回こうだ。
とりあえず顔を洗って頭痛薬を飲もう、と体を起こしたところで違和感に気づく。自分が何も着ていないことに。どうりで寒いわけだ、と思いながら布団から出ようとしたところで……腕を掴まれた。
「……もう起きたのか、なまえ」
私のベッドはデカい。大人が三人で眠れるどころかスペースが余るほどに。更に寝起きで思考力の鈍っていた私は気づけなかった。そういうことにしておいてほしい。
私の腕を取り、引き寄せて触れるだけのキスをしたのは……同じように裸になったイタチだった。
「あ…………うん」
混乱しながらも咄嗟に顔を取り繕えたことを誰か褒めてほしい。どうしてイタチが私の部屋に? ていうかなんで全裸? なんでキスしたの? 疑問が頭の中を埋め尽くしていく。
「そうか。名残惜しいが……」
イタチの手が頬を一撫でして離れる。彼がベッドから降り、部屋に散らばっていた衣服を集め、その身に纏うのを目で追いながら頭をフル回転させていた。これって、もしかしなくても……私、イタチと……。
「もう行かなければ」
「え。あ、気を付けて……行ってらっしゃい……?」
「ありがとう。行ってくる」
そういえば今日、イタチは任務だったか。上の空でも口から滑り出すのはいつもと同じ見送りの言葉。微笑んだ彼が私の頭を撫で、部屋から出ていくのを呆然と見送りながら私は呟いた。
「もしかして……ヤっちゃった……?」
▽
「旦那ああああああ!!!」
「うるせぇ! オレを旦那って呼ぶなっつってんだろううが!!」
寂れた元観光地、そこの廃墟になっていた旅館を改造して作られた暁アジト。一階は共用スペースで二階は住居スペースになっており、客室を改装してそれぞれの私室にしている。その一室のドアを蹴破るようにして開ければ返ってくる怒号。ヒルコ姿ではなく本体のサソリがドア近くの作業台前からこちらを振り返っていた。どうやら傀儡のメンテナンス中だったらしく、工具を手にしている。彼と同じように古株の私は、それなりに付き合いが長いし年齢も近いし、それなりの仲だと思っている。勝手に。
「どっどどどどうしよう!?」
「要領を得ねぇな、言いたいことまとめてから出直してこい」
「い、イタチに手出しちゃったかも……ていうかほぼ確定なんだけど……」
「は?」
流石のサソリもそれは予想外だったのか、驚いた様子で手を止めてこちらを凝視してくる。その隙に近くの椅子を勝手に拝借して座り込んだ。
「あんな若いイケメンに……逮捕されても文句言えないよねこれ!?」
「その前にもう犯罪者だろうが」
「いやそうなんだけどさぁ!?」
暁に所属している時点でS級犯罪者であることに変わりはない。それは前線に立たない私も同じ。雲隠れの里の医療忍者だった私は、あまりの待遇の悪さにブチギレ、禁術を盗み出して抜け忍になり、放浪していたところで小南から勧誘され、それを快く受けて今に至る。
それはそれとして、イタチはまだ二十歳にもなっておらず私は二十代後半。年齢差は十歳近くあるわけで。自分で言ってて犯罪臭しかしねぇな。
「つか何か覚えてねぇのか?」
「浴びるようにお酒飲んだことは覚えてるけど、それ以外は何も」
「……これを機に酒の飲み方、見直したらどうだ」
「そうします……」
サソリに呆れたように言われ、肩を落として反省する。そう、私は酔ったら記憶をなくすタイプだ。そのせいで散々トラブルにあったけれど、男と寝てその記憶がないのはこれが初めて。しかも仲間内でなんて……。
「そういや……イタチと一緒に中座して、そのまま戻ってこなかったな」
「マジ? じゃあその時か……」
「部屋に連れ込まれでもしたか?」
「いや私の部屋で目が覚めたから、私が連れ込んだっぽい」
「あー」
「あーって! 軽い! てかどうしよ、これからイタチとどう接すればいいの!?」
「うるせぇ!!」
頭を抱える私に再び怒鳴るサソリ。そんな二人をよそに、部屋のドアがガチャリと音を立てて開いた。
「二人で何の話してんだ……廊下まで声響いてたぞ、うん」
「あ、デイちゃん」
「その呼び方やめろって言ってんだろ! うん!」
そのまま部屋に入ってきたデイダラ。怒ってるけど全然怖くない。むしろかわいい。でもちょっとタイミングが悪いかな……。
「んで何の話してたんだよ、うん?」
「あー……コイツと芸術について語り合ってた」
「えっ? あ、そうそう」
ことあるごとにイタチに反発する彼の前で、これ以上イタチの話を続けられるわけがない。最悪部屋が吹っ飛ぶ。黒焦げにされるのは免れたい一心で、私とサソリは素早くアイコンタクトを取り合って無理やり話題を変えることにした。
「芸術ゥ? 旦那となまえが? うん」
「そーなのよ。デイダラ先生は最近どう?」
「せ、先生!?」
「優れた芸術家のことをそう呼ぶんでしょ? ならデイダラは先生じゃん」
「ま、まぁな! うん!! 次の作品はな……」
最初は不審そうな目で見られたものの、ちょっとおだてただけで熱く語り始めるデイダラ。いやチョロすぎか? まぁそこがかわいいんだけども。
横目でサソリの様子を窺うも、彼はこれ幸いとばかりに既に自分の作業に戻っていた。逃げたな……。
ていうか相談しに来たのに何も解決してない。まあデイちゃんがかわいいからいっか。
「おい聞いてんのかなまえ! うん!」
「聞いてる聞いてる」
▽
随分と長い間話していたからお腹がすいた。時計を見ればもう夜に差し掛かっていたので、まだまだ話し足りない様子のデイダラを説き伏せて階段を降り、一階の宴会場を改造した広い居間とそこに続く台所へと向かう。食事を摂る必要のないはずのサソリも着いてきたので、寂しがりやさんなんだから☆って頬をつついたら毒付きの刃物が飛んできて死ぬかと思った。すぐに自前の解毒薬で解毒したけど。そしたら舌打ちされたけど。まぁこんなのは日常茶飯事だ。
「何作るんだ? うん」
「ん~……ご飯炊いてあるし、卵もあるから炒飯かなぁ」
デイダラと話しながら冷蔵庫を覗いて、ついでに葱とハムがあったので拝借して適当に切り、フライパンでサラダ油を温めて溶き卵を流し入れた。ある程度卵が固まったら二人分のご飯を投入して炒め、塩胡椒を振り入れ、具材も加えてまた炒める。
「腹減ったぁぁぁ! メシ!」
「うるさいぞ飛段……」
勢いよくドアが開いたと思ったら飛び込んできたのは飛段、その後ろに角都が続く。不死コンビの二人が任務から帰ってきたようだ。
「二人ともおかえり。炒飯食べる?」
「食う!」
「おっけー。角都は?」
「……貰おう」
出来上がった炒飯を一旦皿によそい、フライパンを綺麗にしてにんにくチューブを絞り出し、再び同じ行程を繰り返す。デイダラと飛段が騒ぎ、それぞれの相方に殴られ、蹲って苦悶する髷と快楽に浸り更にうるさくなるドМ。あ、角都のひじきで強制的に口封じされた。
やがて出来上がった四人前の炒飯をこれまた大きなダイニングテーブルに並べれば、各々が定位置につく。ちなみにデイダラ・サソリ・私、テーブルを挟んで向かいに飛段・角都の順だ。そしてニンニク入り炒飯はデイダラと飛段、ニンニク抜き炒飯は私と角都の分。
飛段が彼の信じる神に食事前の祈りを捧げている。それを横目に口布を外す角都。手を合わせていただきますなんてせず、各々レンゲを手にとって食べ始める。サソリは「傀儡の全て 〜最近流行りの造形から仕込みまでこれ一冊で全てがわかる!〜」という本を読んでいた。……仕込みの全てまで知られちゃったら、実際戦う時に困る気がするけどそれはいいんだろうか。
「相変わらずうめーなァ」
「炒飯とか豚丼とか、男飯系はなまえが作ったやつが一番だな、うん」
「ありがとう、でも皿洗いはしてね」
「「え゛〜!」」
笑顔でそう告げれば同時に飛んでくる不満げな声。誤魔化されないぞ私は。
「まーでもマジで旨いぜ! なー角都?」
「……まぁ、悪くないな」
「ホントに? ありがと」
まさか角都から褒められるとは思わず、嬉しくなりながらレンゲを口に運ぶ。
だけどその手はすぐに止まってしまった。
「それにしてもよォ、昨日の飲み会ン時のなまえは凄かったよな」
「確かに中々のものだったな……」
「え゛っ!?」
「なんだよ、また何かやらかしたのか? うん……」
ゲハゲハ笑う飛段に珍しく同意する角都、呆れた目でこちらを見るデイダラ。私の酒乱っぷりは暁内では有名なので、普段なら何を言われても別に気にしないが、昨日の今日だ。一体何をしたんだろうか……。
「あの~角都さん、もしかして私何かやっちゃいましたか……?」
「オレの背中の心臓を口説いていた」
「えっ何それ」
「オレが知るか」
恐る恐る角都に問うてみれば、予想外も予想外の回答が来た。正面に座っている彼と互いに顔を見合わせる。
「まぁ……あれは見物だったぜ。本気だったからな」
「待って、本気ってどういうこと」
「めっちゃキメ顔作って愛の言葉囁いてたぜ~、角都の背中に。しかも角都も酔ってっから何も言わねぇの。ちょーカオス」
「メチャクチャ面白そうじゃねぇか……オイラも見たかったぞ、うん」
ニヤニヤ笑いながら会話に参加してくるサソリと、当時の様子を再現するかのようにキメッキメの顔を作る飛段。角都は酔うと黙るタイプなので、その時何も言われなかったのは相当酔っていたんだろう。シラフだと口説き代とか請求されそうだ。……本当に請求されそうだしコレ言うのはやめよ。薮蛇になりかねない。
「デイダラちゃんはすーぐ寝ちまったもんな」
「クク……いつまで経ってもガキだな」
「ガキじゃねぇよ! うん!」
「はーいどうどうどうどう」
飛段とサソリにからかわれて怒るデイダラを宥めつつ苦笑する。そういうところですぐ怒るからガキだって言われるんだけどなぁ。ていうか実際お酒弱いし、すぐ寝るし。まあそこが可愛い以下略。
ちなみに飛段は酔うととにかくテンションが上がる。そしてダル絡みを始める。やりすぎて角都に惨殺(死なないけど)されていたりもするが、それはご愛敬だろう。サソリが酔うところも見てみたかったが、生憎彼は人傀儡なので飲食物を摂取できない。でも多分絡み酒だろうな……。
「つかなまえ、ほんとに何も覚えてねぇのかよ? その後イタチが、」
「オレが何だ?」
「どわっっ!」
気配すら感じさせずにいきなり現れたイタチに、油断していた飛段が大きく肩を跳ねさせ、他の三人が一瞬で臨戦態勢になる。その辺は腐っても影クラスの忍だなぁなんて適当なことを考えながら、炒飯の最後の一口を咀嚼した。一介の医療忍者に戦闘能力を期待しないでほしい。伝説の三忍の一人、綱手姫ならまだしも。
「てめーイタチィ! 気配消してんじゃねー! うん!」
「あぁ、悪い……ただいま、なまえ」
「アッ、お、おかえり」
「ホントに悪いと思っ、ふがっ!」
デイダラから責められるも軽くあしらい、こちらに微笑みかけてくるイタチ。それに私はぎこちなく挨拶を返す。後ろでぎゃいぎゃい騒いでいたデイダラがサソリに口を塞がれたが、それを気にする余裕は今の私にはない。だって自分が襲ってしまった相手が目の前に居るんだから。嫌がる相手を無理やり……なんて趣味じゃないし、そうじゃないことを信じたいけれど、酒が入ったときの私は何をやらかすか自分でもわからない。
……だから今めちゃくちゃ不安です。イタチと争って暁を抜けた、大蛇丸の二の舞にはなりたくない。
「鬼鮫は? 一緒ではないのか」
「ああ……もうすぐ追い付くだろう」
「追い付くってお前、置いてきたのかよ」
「そんなになまえに会いたかったのかァ~?」
私が頭を抱えている間にも会話はどんどん進んでいく。飛段のからかい混じりの問いに、いやなんでそこで私が出てくるんだ、と突っ込もうとした。
「そうだが」
「は?」「あ?」「え?」
「ブフォッ!」
「っは、あぁぁぁっ!?」
イタチに素直に肯定され、固まる不死コンビwith私、そして噴き出すサソリと、それによって口を塞ぐ手がズレたことで声が出せるようになったデイダラが驚嘆する。
い、イタチが私に会いたい? なんで……?
はっ! ま、まさか。
そんなに昨日のことでお怒りに……!? 一刻も早く問い質してやろうってこと!?
「なまえ、来てくれるか」
「はっははは……ハイ」
下を向いて震えている若干一名の人傀儡、そいつを除いて唖然とする面々を尻目に、イタチは私の手を取って椅子から立たせる。これからどんな追及をされるのかと怯える私は顔面蒼白でコクコクと頷いた。今日が私の命日かもしれない。
そのまま居間を出て廊下を歩く。無言なのが怖い……。玄関近くで帰ってきた鬼鮫とすれ違い、助けを求めようとしたら苦笑して手を振られた。ああなんて事だ、暁の良心と名高い(呼んでるのは私とデイダラだけ)鬼鮫にすら見捨てられてしまった……!
イタチの後に続いて階段を登り、二階にある彼の部屋にお邪魔する。ここまで来たら腹を括るしかない。
「……なまえ、昨日のことだが」
「すんっっっませんでしたぁぁぁああああ!!!」
「な、っ」
イタチに話を振られ、罪悪感に耐え切れず……先制ジャンピング土下座をかましてしまった。
「いや実は昨日何があったのか、何も覚えてなくて……ですね」
「……は」
「多分私がその……迫ったんだと思うし、そこはごめん……ほんとに……」
驚いた様子のイタチに構わず、床と視線を合わせたままモゴモゴ言い訳をする。
「待て、何を言……」
「でも! ちゃんと! 責任は取るから!」
勢いよく顔を上げれば、中腰になってこちらを覗き込んでいるイタチと視線がかち合う。相変わらず美しいその顏は、どこか憂いを湛えているような気がして、私は冷や汗を垂らした。
「……覚えていないのか」
「アッハイ、その、誠に申し訳ないのですが……私その、酔ったら記憶を失くしてしまうタイプでですね……」
「知っている。が……そうか」
「ぅわっ!?」
床から軽々と抱え上げられ、柔らかいもの……ベッドの上にそっと降ろされる。わけがわからず呆けていれば、イタチが暁の外套を床に脱ぎ捨て、ベッドに乗り上げてきた。
「なら次は、ちゃんと記憶に残るようにしよう」
「は、ちょ、何を……っ」
服の上から、臍の下から胸元までを辿る手。官能を孕んでいるような動きに背筋が震えた。
「い、イタチ……?」
戸惑った声を上げる私には構わず、こちらの両脚の間に膝を差し込み、覆い被さってくるイタチ。
片手で両腕を押さえ付けられ、もう片方の手で顎を掬われて。私はやっとこの危機的状況が呑み込めてきた。
「なまえ」
「なん、……っふ」
そのまま唇を奪われる。息を継ぐ暇もないほどの深いキスに翻弄されてしまう。相手はずっと年下で、まだ二十歳にもなっていなくて……だけどもう、十分すぎるぐらい”男”だったようだ。
「責任を取ってくれるんだろう?」
口付けが終わったかと思えば、イタチの熱い手のひらが服の下から侵入してきて。抵抗しようにも押さえつけられてしまいそれも叶わない。慌てふためく私に向けられる……凄艶な笑み。
言葉は声にならず、再びイタチの唇に呑み込まれた。
▽
「どういうことなんだよ!? 旦那っ何か知ってんじゃねーのか!? うん!!」
「……」
「何とか言ってくれよ! うんー!!」
自室に戻ってなお騒ぎ立てる相方を黙殺しながら、オレは傀儡のメンテナンスを再開する。というかデイダラ、テメェはいい加減自分の部屋に戻りやがれ。
仕込みを調整しながら、先程連れ立って居間を出た二人……イタチとなまえのことを考える。とはいえ、デイダラのように疑問だらけな訳ではないが。
そもそも、非戦闘員であるなまえがイタチを襲ったとしても、イタチがそう簡単にやられるわけがない。つまり昨日のことは完全にイタチの意思の元で行われたことだろう。なまえが覚えていないのは……まぁ、ご愁傷さまというか自業自得というか。
昨日、角都(の心臓)を口説いているなまえにイタチが迫り、何事か話してから二人が姿を消したのは知っていた。イタチも酔っていたのか、顔が随分と赤らんでいたのを覚えている。
しかしあのイタチがなまえに……意外だな。色恋沙汰に興味があるようには見えなかったが、若い男なぞそんなものかもしれない。まぁ、オレにはとんと縁のない感情だが。
「なぁ旦那! 旦那ー! だ……きゅう」
「煩ぇ」
片手間でデイダラに麻酔薬を打ち込み、目を回して大人しくなったのを横目で確認して作業を再開する。
代わり映えのない任務に日常。定期的に死体が手に入り、こうして傀儡の製作と調整に時間を使えるのは悪くないが、たまには刺激が欲しいと思っていたところだった。
「クク……さて、どうなるかな」
これからのことを考え、オレは口端を歪める。そうして一人、面白くなりそうだと笑った。
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