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ああ失敗した、と私はため息をついた。
暁の中では最年少で、一番最後の追加メンバーである私。ぺーぺーで一番弱い。血継限界はあれど、戦闘に役立つようなものじゃないし……。
血継限界持ちあるあるであろう、里ぐるみでの迫害に辟易して里を抜けたはいいけれど、お金も行く宛もなかった。そんな私に手を差し伸べてくれたのがこのS級犯罪者集団だった。何でもメンバーに死者が出た場合の補充要員だとか。ここを追い出されたら最後、路頭に迷うこと間違いなしの私は、化物揃いの組織でお荷物にならないようガムシャラに働いていた。
私より先にその補充要員として組織に加わっていたのはトビという人で、先輩と呼んだらメチャクチャ喜ばれた。私より弱そうに見えるけど、サソリさんが亡くなりその後釜に選ばれたので、きっとそんなことはないんだろう。サボりがバレたり不遜な発言をしたりで、デイダラ先輩によくシバかれているけれど。
そう、デイダラ先輩。わりとドライな組織の皆さんだが、その中でも私を気にかけてくれる人がいた。それが彼だ。年が近く、何かと任務で一緒になることも多かったため、プライベートでも話すことが多かった。……過去形なのは、今まさに私が生か死かの瀬戸際にいるからだ。
「もう逃げられんぞ……!」
人里離れた山の頂上、身を隠す所などない岩場。私から数メートル離れて周りを囲むのは数人の男たち。みんな雲隠れの里の額当てを着けていて、恐らくは上忍クラス。全員ピンピンして殺る気に満ち溢れている。対して私は、チャクラが底を尽きそうになっているし怪我もしている。ああもう、思い出すと痛みがぶり返してきた。手で押さえた脇腹に血が滲む。
「大人しくしろ。そうすれば命だけは助けてやる」
「はは……嘘ばっかり」
敬語が手薄になった時を突いて大名を暗殺するだけの簡単なお仕事だったはずなのに、誤った情報を掴まされたのか、それとも最初から全部罠だったのか……大名の寝所に当の本人はおらず、代わりに多数の忍が待ち伏せられていて。逃げようとしたけれどこの有り様だ。
捕まった血継限界持ちの末路なんて想像に難くない。実験を重ねられてホルマリン漬けになるとか、意識のあるまま解剖されるとか。多数の異民族を拐って繁栄してきた雲隠れなら、子どもを産まされ続けるというのもありえるか。しかもそれだけじゃない、私は末席とはいえあの暁の一員なのだから、拷問に次ぐ拷問で思い付く限りの苦痛を味わわされるだろう。……そんなのは絶対に御免だ。
「ほら、早く殺しなよ……っ、それともビビってんの? こんな子ども相手に、情けない……」
「なんだと……!?」
自らのためにも、組織のためにも捕まるわけにはいかない。だけどこの状況を打破できる技量なんて私にはない。自決しようにも、もうクナイ一本すら残っていないから無理だ。それならいっそ、殺された方がマシだ。
そう思って少し煽ってみれば、戦闘後で気が立っているらしい男が一人、簡単に挑発に乗ってくれた。
「そんなに死にたいなら今ここで殺してやる!」
「おい止せ! そいつは生け捕りに……」
「死ねぇぇっ!」
仲間の制止を振り切り、雲忍の男が飛びかかってくる。ああ、これで私も終わりか。あっけない人生だったな、なんて考えながら目を閉じた。
――その時。
「なまえ下がれ! うん!!」
聞きなれた声がした。ここにいるはずのない、彼の声が。
反射的に痛む体を動かせば、次いで煙幕が広がる。雲の忍たちが慌てる声が聞こえた。
「ど……どうして?」
緊張で渇いた唇からは掠れた声しか出ない。それでも彼は私の場所が正確にわかったらしく、意外と逞しい腕によって起爆粘土でできた鳥の上に引っ張り上げられた。同時に地面スレスレに飛んでいたその鳥は高度を上げ、同時に印を結び終えた先輩――そう、デイダラ先輩が、どんどん小さくなる敵を睨み付けていて。
「喝!!」
彼が怒鳴るように唱えれば大きな爆発が起こる。その爆風を追い風にして、私たちが乗った鳥はぐんぐん距離を離していく。風に煽られて彼の金糸のような髪が靡いて、太陽の光に反射してきらきらと輝いて。綺麗だな、なんて場違いな感想を抱いた。
そして、疑問も。
「……どうして、助けてくれたんですか」
デイダラ先輩は別の任務があったはずだ。それも雲隠れの里とは逆方向の小国で。それに、私一人を失ったところで、組織にとって大した損失にはならない。それなのに、どうして……。
唇を噛んで俯いてしまった私に、あー……と少し言葉に詰まった先輩が、再度口を開く。
「……先輩なんだから当たり前だろ、うん!」
思わず顔を上げれば、照れの混じった笑顔がそこにあった。さっきより近くなった太陽に照らされたそれは、私にとっては何よりも眩しくて。
胸が締め付けられるって、こういうことなんだろう。呼吸すら忘れた私は、デイダラ先輩をただ見つめていた。
――きっと私はこの日、この人に恋をした。
「……二人していい雰囲気になってるとこ申し訳ないですけど、ボクもいるんですよね!」
「わ、トビ先輩!?」
「ドーモ。大丈夫でしたか? 全く、任務が終わったと思ったらデイダラ先輩が飛び出していっちゃうんで驚きましたよぉ~! よっぽど心配だったみたいですね! チョー焦ってて見物で……いや面白……いやいや」
「え、えっ」
「……トビィ……いらねーことをペラペラとぉ……! うん!」
「ア、アレ? 先輩? その手の起爆粘土は……」
「黙ってろ! 喝!!!」
「ちょっ、先輩危な、ウワーッ!!!」
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