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「バクラ、これあげる!」
なまえが笑顔で差し出してきたのは小さな箱。
受け取って遠慮なく包装紙を破れば、出てきたのは天然石のブレスレット。ペリドットをメインに水晶がその力をブーストするように配置されている。
鮮やかなオリーブグリーン。その石の表すところに目を眇めた。
「…テメエ、この石の意味わかってんだろうな?」
「“幸せ”……じゃないの?」
知らねぇのか。そうじゃねぇかとは思ったが。溜息を吐きつつ口を開く。
“黄金の太陽”やら“暗黒の波動を打ち砕く石”などと呼ばれていたこと。全てを浄化し、悪しきものを寄せつけないための護符として珍重されていたこと。
一つ一つ説明していけば、なまえの顔が面白いぐらい驚愕に染まってゆく。
「テメェはよっぽど、このオレ様を消滅させてぇらしいな?」
「ち、ちが……っ、そんな意味があったなんて知らなくて……」
わざと呆れたように言ってやれば。目尻に涙を溜め、慌てて否定する彼女。その姿に胸がすく。
――オレが千年リングに宿る邪悪な意思であることを知ってなお付き纏ってくる女。それがなまえだった。なまえがオレの存在を知ったのはただの偶然で、宿主や王サマたちと同級生ではあるが特別仲が良いわけでもないらしい。……まあ、もし仲間だったとしたらオレ様にあんな能天気な笑顔向けてくるわけねえか。
巡り始めた思考を振り払うようにブレスレットを突き返す。中身が何であれ、受け取る気はさらさらなかった。……なんて、誰に言い訳してんだか。
「宿主にでも渡せ」
「だめ。これはバクラにあげるために買ったんだから」
「ンなくだらねぇモン着けてられっかよ」
何度押し返してもなまえは一向に受け取ろうとしない。それどころか、ブレスレットごと手を握られて。
久々に感じた人の肌の感触、その生暖かさに図らずも動揺してしまう。出かかった拒絶の声は、彼女の顔を見て喉奥で引きつった。
「バクラにも、幸せになってほしいから……」
苦しむような、祈るような表情。なまえの両の瞳が潤んできらきらと輝く。
それが――美しい、だとか。
「……阿呆くせぇ」
なまえの手を振り切り、項垂れた彼女をそのままに。乱暴に席を立ち、店を出る。
握りしめた手の中にある、微温くなった石の感触がやたらと鬱陶しくて。道端のゴミ箱に捨ててしまおうと振りかぶった。
――けれど、彼女の声とあの底抜けに明るい笑顔、切なく悲しそうな面持ちがリフレインして。
結局オレは、ブレスレットに絡まっていた包装紙の切れ端ごと、乱暴にコートのポケットへ押し込んだ。
若草色のパワーストーンが連なったブレスレット。日に透かせばそれはきらきらと輝きを放つ。僕、獏良了はぼんやりそれを眺めていた。
遊戯くんがゾーマに勝利し、バクラが消滅してから一ヶ月。
彼が着ていた黒いコートを、荷物になるからとエジプトで処分しようとした時……ラッピングの残骸と一緒にポケットから出てきたのがこのブレスレットだった。綺麗なみどりいろをしたそれを、僕は捨てられずに持て余していた。
美しく煌めく石の名前を知り、“なんとなく”気になってその意味を調べ、驚いた。あのバクラにも幸運を願ってくれるような相手がいた――その事実が、どうしようもなく僕の心を乱す。彼は、奴は憎むべき相手。それなのに……湧き上がるのは同情に似た侘しさだった。
……そういえば、最近姿を見ていないけれど……みょうじさんは元気かな。体調を崩してしばらく学校に来ていない同級生のことをふと思い出す。
このプレゼントの贈り主に心当たりがあるか聞いてみよう。遊戯くんたちに聞いてもわからなかったし、彼女が知っているとは思えないけれど……これ以上の手がかりが出てくるとも思えないから、物は試しってことで。
ああ、みょうじさんにはいつ会えるだろうか。早く、元気になるといいな。
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