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「もし私が、嫌な女だったらどうする?」
ピロートークにしてはあまりに寒々しい問い。
新しいシーツに埋もれた私が恐る恐る口に出した言葉。それはよくある恋人への質問だった。それでも語尾が少し震えてしまうのは不安から。
……あなたに嫌われるのが、怖くて。
私から告白して、付き合えたのは本当にラッキーだったとしか言いようがない。月に一、二回誘われるデート。その後に連れ込まれたホテルの一室。
彼が同じホテルに行くことはない。なのに受付やエレベーターに向かう足取りは迷った様子を見せなくて。経験値の違い、だけだろうか。わざわざ郊外まで来る理由は何だろう。
お仕事は喫茶店の店員、兼私立探偵。私が安室さんと出会ったのは彼の勤務先だから、それは知っている。好きな物も、好きな色も、好みのタイプも。なのにどうして、こんなに不安なんだろう。
後ろ暗い思考は試すような言葉を吐く。いけないとわかっていても、止められなかった。
「僕はどんな君でも、その全てを愛しますよ」
真剣な顔で澱みなく答える目の前の男。陳腐な言葉でも、容姿の整った彼が言うと様になる。
でもね、安室さん。
視線を落として毛先をいじる。彼がロングヘアーが好きだと言ったから伸ばしている髪は、やっとセミロングぐらいになった。そのことを安室さんに触れられたことはないけれど。
ああ「私の全て」ってなんだろう。何も聞いてこないくせに、知らないくせに――知ろうとする素振りすらしないくせに。
形の良い唇から紡がれる、からっぽの甘い言葉は「興味が無い」と言っているようにしか聞こえない。
「どうしたんですか?」
「……ううん。何も。そう言ってもらえて、嬉しくて」
心を押し殺して、ただ笑う。
本当の私はもうどこにもいない。髪型も服装も、外側だけじゃなく中身さえも。あなたの好みに合わせすぎて、どこかに消えてしまった。
あなたに捨てられたら生きていけない。もう大学生で、子どもじゃないけれど、そのつもりだけど。簡単にさようならを告げられるような大人にはなれない。
――だから悪いのは、弱すぎた私なの。
彼はいつも通り理由も聞かずに、薄っぺらい微笑みを投げてよこした。
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