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布団の上からのろのろと起き上がる。また眠っていたらしい。窓から見える外はいつも通り暗い。まるで一日中、夜であるかのように。
ぼんやりとする頭を振り、いつもと変わらない部屋をぐるりと見渡す。私の物だった本丸の部屋と似通っている和室。だけれどこれは、私のものではなく。
「主、起きましたか」
障子の向こうから声が響く。そう、この部屋、ひいてはこの屋敷は…私の刀、だった男のものだ。
そして、私も。
「はせべ…」
「まだ眠いのですね。もう少し横になっていますか?」
部屋に入ってきた長谷部が、膝を折って私の頬を撫でる。身動ぐ私には構わずに。
ここは彼の神域。真名を握られ、無理やり神隠しされた私は、ずっとこの部屋に囚われている。
ぎり、と唇を噛む。こんなはずじゃなかった。長谷部は頼りになる近侍であり、忠実な臣下だった。
彼から寄せられた想いには、気付かない振りをした。同じ気持ちを持たない私は、それに応えるつもりがなかったからだ。
叶わぬ恋はいつか消え去る。そうすればただの主人と従者になれる。だから、ずっとその時を待っていたのに。
考えが甘かった。肥大化した想いは彼を狂わせ、方法を選ばず私を手に入れようとした。その結果がこれだ。
思惑をひた隠し、私はつとめて気丈に振る舞う。
「いつまでこんなことを続けるつもり?」
「何時までも、ですよ」
にこりと微笑んだ長谷部の瞳はどろりと澱んで。孕む熱にぞっとした。
恐ろしいのに、引き込まれてしまいそうで見ていたくないのに。その藤色から、視線を逸らすことができない。
「主、俺の主。誰にも渡しません。なまえ――…貴女は永遠に、俺だけのものです」
真名を呼ばれ、心臓を鷲掴みにされたような苦しさと恐怖に襲われる。
そのまま布団に押し倒され、彼の手が太腿を這った。ぞわりとした感覚に背筋を震わせる。
心でどれほど拒絶しようとも、身体は男を受け入れる準備を始めて。
それは生理反応だけではなく。熱い吐息を吐いた。日夜を問わず注ぎ続けられた神気のせいで、私は壊れ、人間ではなくなってしまったらしい。
変わりきってからしか気付けはしない。後戻りなど、出来ない事に。
どうか赦して欲しい、と置き去りにした刀達に乞うた。涙が一筋、眦から零れ落ちる。
最早私は、戻ろうとすることさえ出来ないのだと。取り返しのつかないことに気づいた時には――全てが遅すぎた。
もはや何もかも、なにもかも、ああ!
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