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夜空に流れ星を見つけて、息を呑んだ。ブロンズレッドの色をしたそれは、瞬く間に視界から消え去って。願い事もできなかった。
荒野の果て。寒々しいここには、岩と砂以外何もない。見通しの良すぎる場所だ。頭上には、幾千もの星が瞬いていた。
D・ホイールに凭れ掛かって水を少しだけ飲んだ。食料も飲料も尽きかけている。早く次の街を探さなければ。
ふとデッキケースを取り出す。手に取ったのは私のお守り、「スターダスト・ドラゴン/バスター」のカード。
――遊星に、託されたものだ。
褐色の枠の中に佇む竜。純白の中に映える青。流線形のフォルム。好戦的に構えるようなそのポーズや新たに装着された鎧が、スターダストをより力強く見せている。きらきらと輝くカードの姿にそっと息をついた。
チーム・5D‘sは解散し、互いに歩むべき道を見つけ旅立った。私もジャックやクロウと同じように、プロデュエリストになるために街を出て。ネオ童実野シティに残ったのは、モーメントを研究するという遊星だけだった。
街を去る前日の夜。眠れずにD・ホイールで街を走っている途中、高台で一人佇んでいた遊星を見つけて。バイクから降り立ち、彼の隣に立った。言葉なく眼下の景色を眺めていれば。
――ああ、あの時も星が降っていたのだっけ。
地上のネオンにも負けず、ひときわ輝くそれに目を奪われた。すぐに消えてしまったけれど、確かに私の心に残った光。
暫くそうしていれば、遊星から一枚のカードを差し出される。彼のエースモンスターであるドラゴンが描かれている、効果モンスターのカード。意図がわからなくて、彼の顔を見つめ返すけれど。
「これは、お前に預ける」
「えっ…?」
その一言に、目を見開いた。慌ててもう一度カードに視線を移す。「バスター・モード」の効果でのみ特殊召喚できるモンスターカード。攻撃力だけでなく、モンスター効果まで非常に強力なカードだ。なぜ遊星は、このカードを私に?
「どうして…」
「なまえが心から強くなったと思える日が来たら、返しに来てくれ」
俺の元へ。いつか、必ず――。そう続けられた言葉に、何度も頷くことしかできなかった。
じんわりと胸に広がる高揚。こんなに嬉しいことはない。憧れであり、仲間でもあるデュエリスト――不動遊星が、私に彼の大切なカードを託してくれたのだから。
興奮冷めやらぬ私に微笑んだ遊星は、再び眼下の景色に向き合う。その視線につられて私が再度瞳に映したのは、空と海の境界。しらじらと色を薄めてゆく世界の端に、夜明けを知った。
――デュエルディスクにカードをセットすれば、美しい竜がその姿を現す。装甲の違いはあれど、その横顔は紛れもなくスターダストで。懐かしさに思わず目を細めた。
思い出すのは星屑と共に戦う、恒星のような男。自ら光を発し、皆それに惹かれてゆく。私も、例外ではなかった。彼と再び会うことができれば、この感情にも名前をつけられるだろうか。
辺りをぐるりと見渡す。あの時と同じ、雲ひとつない夜空が広がっている。星明りが照らす荒野は相変わらず殺風景で。D・ホイールに跨がり、エンジンをかけた。
道なき道。だけれどこの先へ、進み続ければきっと――また会える。
ユリ柩様
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