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「なに、それ」
寝ぼけ眼を擦りながら聞く。時計を見ればもう1時だ。こんな遅い時間に来なくても、ぐらいは言っても許されるだろうか。
寝間着に裸足の私とは違い、目の前の彼はまだ隊服姿で。こんな時間まで仕事してたんだ、汗すごいなあ…なんてまだ覚醒しきっていない頭が考える。
「ケーキだよ…っハ、なまえお前、誕生日だったろ…ッ」
息を切らせて玄関にしゃがみ込む十四郎。突き出された白い袋に目線を落とす。そこには有名スイーツショップの名前が印字されていて。嬉しい気持ちを取り繕うように、平坦な声を出した。
「昨日は、ね」
「*っ……すまん」
「いいよー別に」
虐めようと思ったけれど、本当に凹んでいる様子の十四郎を見ていると罪悪感が湧いてきて。つい許しの言葉を口にしてしまう。
「よくねぇだろ」
「っ…とうしろ、」
「悪かった、誕生日なのに一緒に居てやれなくて」
立ち上がった彼が、両手で私の手を握る。
本当はいつも残業のある彼が早めに仕事を終わらせて、家で誕生日会を開く予定だった。二人だけのささやかなもの、だけど私にはそれで十分。何より十四郎が祝ってくれると言ってくれたのが嬉しくて。
完全に舞い上がっていた。彼の仕事が終わらず、帰りが遅くなる旨の連絡を貰うまでは。仕事なんだから仕方ないと、頭では理解できていても――。
「ほんとは、寂しかった」
「…すまん」
「いいって。こんな遅くまでお勤めご苦労さまです」
冗談ぽく、労うように高い位置にある頭を撫でれば、強い力で抱き締められる。ふわりと香るいつもの煙草の匂いに、少し力が抜けた。
「――誕生日、おめでとう。なまえ」
「あ、りがと…んっ」
照れる暇もなく合わさった唇が何より優しくて、私も彼の背中に回した腕に力を込めた。
▽
「ねぇ、このケーキどうしたの? 確かめちゃくちゃ人気店なんじゃなかったっけ…」
「山崎並ばせて、屯所の冷蔵庫で冷やしといた」
「うわ、職権乱用」
山崎さんありがとうございます、と心の中で手を合わせて。残しておいたご馳走を温めるため、キッチンへと向かった。早くしなければ、空腹なだけでなく疲れている十四郎が居眠りを始めてしまう。
「ご飯食べたら、お茶にしようか」
早くも船を漕ぎ始めている彼に笑いかける。今日ぐらいはあの狂ったコーヒーじゃなくて、お気に入りのカップに淹れたとびきり美味しい紅茶を出そう。
#言葉リストからリクエストされた番号の言葉を使って小説を書く より
「ケーキ、カップ、目線」で土方夢
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