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瞬いて目覚める。未だふわふわとした意識は、まるで夢の中にでもいるようだった。
自分の頬を擦れば水分が付着する。泣いていたのかな、なんてぼんやり考えて。傍らで未だ眠る男を見やる。
憔悴した表情のまま瞼を閉じている、がっしりした体格の男。血のように赤い髪がシーツの上に力なく散らばっていた。
庵が数日ぶりに私の家を訪ねてきたのは昨日の晩だった。普段以上に昏い光を宿した双眸に、また何かあったんだろうなとぼんやり考えながら服を脱いだ。こういうとき、彼はひどく荒々しく私の身体を暴く。
理由なんて聞かない。聞けない。知ってしまえばこの関係が終わる、そんな気がして。バンドのメンバーとファンのそういった関係なんて、薄く壊れやすいものだから。
彼の、ベースを弾いている姿が好き。それは何も知らされない私が知っている、唯一の本物で。足繁くライブに通い、彼を眺めているのが何より幸せだった。
ある日〝何か〟を期待して、差し入れた手紙に連絡先を書いて渡せば、奇跡が起こって。彼から「会えないか」なんて連絡が来た。何度か逢瀬を重ねるうちに、私の部屋に来るようになり――肌を重ねるまでは早かった。これで何回めになるだろうか、もう覚えていない。
繋がりができても、私は彼のライブに行くことをやめなかった。庵もそれを止めず、チケットを手配してもらうことだってある。それが何より嬉しかった。彼の隣にいることを赦されたような気さえしてしまう。でも――実際は?
暗くなってきた気分を振り切るように上体を起こす。昨日はセックス後そのまま寝てしまったから、喉が渇いて仕方ない。何か飲もう、とベッドを出ようとしたところで、腰に手を回された。
「なまえ……どこへ、行く」
「あ……ごめんね、お水飲んでくる」
寝起きの掠れた声が、私の鼓膜を震わせる。起こすつもりはなかったけれど、一人で由無し事を考えていた寂しさが紛れた気がして。少しほっとしてしまう。
キッチンに向かう旨を伝えても、腕が離される気配はなく。まだ眠そうな瞳が私を捉える。いつもとは違うあどけない姿に、きゅうと胸が締め付けられた。
「行くな」
「……うん」
そう言われてしまえば、もはや私は逆らえない。大人しく頷き、彼の腕の中にすっぽり収まる。弱っているせいか、庵は珍しく甘えたがりらしい。
しばらくそうしていれば、私の胸に頭を預けてまた寝息を立て始める彼。セミダブルのベッドは、体格の大きい彼と眠るには少し狭い。片手で髪を撫でれば、より密着される。丸まった姿が猫のようだと静かに笑った。
――私だって本当は、あなたが抱えているものに触れたい。この関係が何なのか、いつもライブで最前列に呼んでくれる理由とか。そういう事も、教えてほしい。
いつか全部、教えてもらえたらいいな。そう願いながら、彼の脚に自分のものを絡める。
庵の背中側の窓に下がっているカーテン。その隙間から覗く光がきらめいて。私はそっと手を伸ばした。
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