酒は飲んでも呑まれるな
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傾き始めた夕陽が影を作る。山の中に隠された屋敷の最奥の部屋で、座布団に座ったひとりの鬼が微睡んでいた。
それはそれは美しい男だった。髪紐で緩く纏められた深い紫苑色の髪は長く、畳に着きそうなほど。今にも閉じてしまいそうな瞳の色は薄い金で、肌は抜けるように白い。目尻に施された紅がその端正な容貌を彩っていた。細身だが適度に筋肉の着いた身体に、纏った朱色の着物と藤色の羽織は上質なもので、それがまた彼の高貴さを際立たせていた。
だがその男は――人間ではない。尖った耳先に、半開きになった口から覗く牙の鋭いこと。また瞳孔は縦に裂けている。極めつけに、額の中央で分けられた前髪を支えるように立つ二本の黒々とした角がそれを物語っていた。
鬼――名を苑鬼という――は、ここ璃月の外れにある小さな山を治める者だ。元は稲妻に棲んでいたが、百年ほど前にこちらに越してきた。統治者がおらず妖の類が蔓延るだけの荒れ果てた山に御旗を掲げ、それ以来この地はずっと彼とその部下たちによって護られてきた。山の麓に住む人々もそのこと――なにかが現れ、山を治めているらしいということ――には気づいているようで、時折酒などを捧げている。
時間は酉の刻に差し掛かろうとしていた。昨日つい
「苑鬼様」
「ン、んん……なんだ」
「人間が来ております」
「人?」
眠い目を擦っていた苑鬼だが、蒼鬼の言葉に片眉を上げ、その意識を覚醒させる。人間ごときが、
「苑鬼様にお会いしたいとのことですが……どうなさいますか?」
「そうだな……」
いつもなら人間ごときが不遜な、と一蹴するところだが、苑鬼はとても……とても退屈していた。稲妻ならまだしも、璃月に知り合いなどいない。勝手に山を占拠しているという負い目もあったため、おおっぴらに出歩くこともできなかった。そのため長い間、山の連中以外との関わりを持たずに過ごしてきたが、正直話すことも暇つぶしの道具も尽きていたところだ。いい退屈しのぎになるだろう。それに、見目が良ければ……。
「会うと伝えろ。それから……酒と
あらぬことを想像し、愉悦に浸る苑鬼。そんな彼をよく知る従者は内心でため息をつき、もてなしの準備に取り掛かるべくその場を後にした。
苑鬼には悪癖があった。人間を拐い、食べるという癖が。
食べるとはいっても、食事ではなく……性的な意味合いの方だ。稲妻に居た頃はそれこそ何人もの女を食い漁り、飽きれば呪いで記憶を失わせて元の場所に帰した。気に入った者は帰さず邸内に置いておくこともあったが。まあ神隠しならぬ鬼隠しだ、無体を働いているわけでもない。人間などいくらでもぽこぽこ増えるのだから良いだろう……というのが彼の弁だった。
そのせいで過去に痛い目を見たこともあったが……自分に都合の悪いことは頭から綺麗さっぱり消し去る手合いの苑鬼は、久しぶりに女を食えるかもしれないと心を踊らせていた。
それから四半刻ほど経った頃。日は落ちきり、行灯の柔らかな光が部屋を照らしていた。自室から客間へ場所を移した苑鬼は、今か今かと
「失礼します」
やがて障子がゆっくりと開き、蒼鬼の後ろに立つ人間だろう者の姿を確認した苑鬼は、僅かに眉を顰める。
そこに立っていたのが――男、だったからだ。そういえば蒼鬼から性別を聞くのを忘れていた。期待が外れたことに内心で舌打ちを零しつつ、今一度その者に視線をやる。
見目は……悪くない。むしろ整いすぎているぐらいだった。すっと通った鼻筋、琥珀を嵌め込んだような瞳……目尻を彩る朱は化粧だろうか。焦茶色の長い髪は毛先が橙に染まっていて、それを一つに束ね垂らしている。背格好は細身だが、誂えたであろう洋服の下に鍛え上げられた筋肉を有していることは容易く想像できる。
どれほどに細く美しかろうと、六尺を優に超えるだろう身長と柔らかさのなく筋張ったその体付き、そしてどこか雄臭い顔立ちは紛れもなく男。それでも苑鬼は、扇子の下に隠した笑みを止めない。女ではないが、中々に上玉。こんなに見目好い人間に出会えるとは。男を相手取るのは初めてだが、試しに食ってみるのもアリだろう……などと考えてしまう程度には飢えていた。
「苑鬼様、こちらの者にございます」
「初めまして、俺は鍾離という。旅の途中に偶然、この屋敷に迷い込んでしまって……」
「そうだったか、それは大変なことだ……まあ座れ」
扇子を閉じ、なるだけ優しい声音で鍾離の警戒心を解こうとする苑鬼。そして手袋を外し上着を脱いで、その正面に置かれた座布団に座る鍾離。二つの視線が絡まり合い、一つは笑みの形に細められ、一つはそのまま真っ直ぐ苑鬼を貫く。
「それにしても、珍しいこともあるものだ。本来なら人間が
「ええ……幸運なことです」
「幸運とな?」
「貴方様のような存在に、お目にかかれるとは思っていなかったもので」
「……ふふ。口の上手い男よ」
柔らかな表情で話す鍾離に、気分を良くした苑鬼は思わず顔を綻ばせる。世辞だろうが、素直に嬉しかった。
百年もの間ご機嫌取りの類から離れていたとはいえ、あまりに単純すぎる主人の姿に蒼鬼は頭が痛かったが。この様子だと、話を逸らされたことにも気づいていないだろう。
「鍾離殿よ、もう夜も遅い。朝までここで休んでいかれるといい」
その言葉に蒼鬼が目で合図すれば、どこからともなく二人の子鬼――人間の少年の姿を取っている――が現れ、膳を二つ置いて去ってゆく。一つは苑鬼のもので、稲妻の辛口の酒が入った徳利とお猪口が。もう一つは鍾離のもので、こちらは苑鬼と同じような稲妻の酒だがもっと飲みやすいもの、そして簡単な食事が用意されていた。
「さあ呑め。わたしは
お猪口を手にした苑鬼がちらりと蒼鬼を見やれば、彼は一礼して部屋から出てゆく。苑鬼は障子が閉められた瞬間、この部屋と隣の部屋――香が焚き染められ一組の布団が敷かれている――に結界が張られたことを感じるが、それをおくびにも出さず酒盛りを始めた。
「……随分と不用心では?」
蒼鬼が去った後に鍾離が呟く。見たところ苑鬼は丸腰だ。決してなよやかであるとか女性らしいというわけではないが、屈強といえるほど体格が優れているわけでもない。寛いで酒を呑む姿には、気品と色香があった。どこかの貴族の出と言われても信じてしまいそうなほどに――もちろん角と牙がなければ、だが。
しかしそれは、荒くれ者の多い鬼の長であり……類まれなる強さを持つ苑鬼には要らぬ心配だ。苑鬼は不遜な態度で皮肉げに口端を歪めてみせた。
「わたしがただの人間に遅れを取るわけもないからな」
その言葉に鍾離は、気を悪くした様子もなく口許で笑みの形を作る。
「ただの人間……か」
「ああ、そうだろう? 妖の類であるというならば別だが」
「あやかし? ……では、ないですね」
「ならば人間ではないか。そんなことより話してくれ。璃月のことを」
鍾離が酒を呑み、ツマミに箸を伸ばしつつ話してくれた話の数々を肴にし、苑鬼は更に酒を呑む。鬼は大酒喰らいが多い。例外なく苑鬼もそうだった。久々の客人の話が上手く、面白かったのもある。互いの身の上話から、璃月で起こった事件、そして苑鬼の自慢話までを語り尽くし、夜は更けていった。
そんな苑鬼だが、岩王帝君が亡くなられた、と聞いた時はさすがに動揺し、お猪口を口に運ぶ手を止めた。
「何と、まさかそんなことが……全く知らなかった。一体いつだ?」
「つい最近です。送仙儀式も終わったところで」
「送仙儀式も……あれは確か、相当厳しい仕来りがあるのではなかったか?」
改めて、往生堂の客卿を見据える苑鬼。詳しいわけではないが、服装や道具はもちろん、天気や参加者の職業まで事細かく決められた規則があったはずだ。それをこの男が?
苑鬼は彼にしては珍しく、人間に尊敬の念を抱いた。酒の力もあり、その気持ちは素直に言葉に表れる。
「博識だな、鍾離殿は」
苑鬼からの賞賛に、鍾離は困ったように微笑んだ。
「記憶力がいいだけ、ですよ」
夜も更け、酒も尽きた。つい飲みすぎてしまった、と苑鬼は頭を振る。ここからがお楽しみだというのに。鍾離へ視線を滑らせれば、彼も酔っているようで。僅かではあるが、頬が染まっていた。艶っぽい男に苑鬼は、仕掛けるなら今かと舌舐めずりをする。
「鍾離殿……もっとこちらへ」
「何、でしょうか?」
「その美しい琥珀をもっと近くで見たいのよ……ほら、っ」
鍾離が近寄るのを待てず、苑鬼が身を乗り出しすぎたせいで、膳がガタンと音を立てて倒れた。徳利に少し残っていた酒が溢れ、畳を汚す。膳と同じように体勢を崩した苑鬼だが、素早く動いた鍾離に支えられる。
「酔っておられるので、っ」
苦笑しつつ苑鬼の顔を見やった鍾離は瞠目する。酒のせいで赤みを帯びた頬、潤んだ目、半開きになった口……熱に浮かされ、まるで誘っているようなその表情が、あまりにも艶めかしくて。つい見惚れてしまった鍾離は、生唾を呑んだ。
その隙に鍾離の後頭部へするりと手を伸ばした苑鬼は、自然な動作で自分の方へと引き寄せ、唇を重ねる。
「っふ、ふふ。引っかかったな……っん♡」
触れるだけの口吻を仕掛け、成功したことに悪戯っぽく笑った苑鬼だったが、今度は鍾離がその滑らかな唇に口づけた。角度を変え、段々と深さを増してゆく。
鍾離の舌が薄く開いた隙間から侵入し、苑鬼の舌を絡め取って啜る。かと思えば上顎を擽ったり唇を喰まれたり……いやらしい水音と共に腔内を侵された苑鬼は、腰が砕けそうなほどに感じていた。まさか、ありえない。鬼のわたしが人間などに、と戸惑うものの、兆しを見せ主張し始めた魔羅に嘘はつけない。
「っ、ふ……ァ♡」
口吸いに満足した鍾離が唇を離した。苑鬼はそれに寂しさを覚えてしまう。もっとしたいと、してほしいと……熱に浮かされた頭で考えてしまう。
「苑鬼様? ああ、もうこんなに……」
「あ、っ……♡」
服の上から形をなぞられただけで、甘い声を漏らしてしまう苑鬼。屹立がはしたなくもぴくん♡と跳ねた。その脈動に気を良くした鍾離は、苑鬼の帯を弛め着物の裾を捲り上げて、褌の上から勃ち上がった陰茎に触れた。抜き上げるように愛撫されて、苑鬼はどんどん雄芯を硬くしてゆく。
「あ♡っふ、ぅ……♡」
苑鬼は一枚の布越しに感じるもどかしい刺激に身悶えした。早く直接触れてほしい。そう思うけれど、矜持が邪魔をして口に出せない。
軽く弄られただけですっかり勃ち上がり、窮屈そうに褌を押し上げている陽物。苑鬼は無意識のうちに、腰を少し上げて揺らし始めた。鍾離の手に押し付けるように、布に擦れる僅かな刺激だけでも享受したくて。
だが、それを見逃す鍾離ではない。
「っ……あ♡」
鍾離が突然ぱっと手を離し、苑鬼は自分がしていたことに気づいて赤面する。待ちきれなくて自らヘコヘコと腰を振るなど……強い雄のすることではない。
耳まで含羞の色に染まった苑鬼に、鍾離は喉を鳴らして笑い、身体を離す。
「鍾離……?」
「まずは俺が、口でして差し上げましょう」
苑鬼を立ち上がらせて肩幅に足を開かせ、両手で着物の襟を持って前を開いているように指示した鍾離は、その足と足の間で膝立ちになる。一秒でも早く快楽を享受したい苑鬼は彼に素直に従った。
弛められていた帯が畳に落ちた。苑鬼はもはや、羽織った状態の着物と褌以外何も身に着けていない。露わになった素肌は白く、胸の飾りは淡い色のまま期待に尖っていて。その股座には褌の薄い布地が象るようにぴったりと張り付き、中身の肌色を透かしていた。
苑鬼の細い腰を掴んだ鍾離は、褌に顔を寄せる。そしてそのまま鼻を擦り寄せて匂いを嗅ぎ始めた。
これに驚いた苑鬼は逃げようとする、が思ったよりも強い力で掴まれていたためどうにもできない。鍾離に会う前に湯浴みは済ませている。臭いはずはない、ないはずだ。だが……。
「やあっ♡どこを嗅いでっ♡」
「ふむ、鬼でも汗はかくんだな……ああ、すみません。初めてのことで、つい気になってしまいまして」
顔を真っ赤に染めた苑鬼は拒否するが、その声音は自らの耳を疑うほど甘く濡れていた。それによく考えると、襟の両側を持ち肌蹴させているこの格好も……まるで鍾離に自分の裸体を見せつけているようではないか? 気づいた途端、とてつもない恥ずかしさに襲われる。目の前の鍾離は未だきっちりと服を着ているのに、自分は素肌を剥き出しにしている、その対比がいかにも淫らに思えて。
そして何より、冷静な鍾離の声が、より苑鬼の羞恥を煽っていった。
「ぅ、あ……♡」
恥ずかしいのに、それが気持ちいい――……。いや、そんなわけはない。そんな変態のような趣味などない。苑鬼は頭を振って否定するものの、布の中で窮屈そうに頭をもたげている魔羅は、それを肯定するかのようにぴくん♡ぴくん♡と反応していた。
「っう♡もぉいい♡はやく、しろっ♡」
「……仰せのままに」
これ以上はおかしくなってしまいそうで、苑鬼は鍾離に命令する。上擦った声で下されたたどたどしいそれは、鍾離にはおねだりにしか聞こえなかったが……素直に従い、彼の褌を解いた。
途端にぶるん♡と飛び出した陰茎。人間のものと変わらない形をしたそれは、大きさも中々だと言えるだろう。……鍾離が“普通”の人間であったならば。
何も知らない苑鬼は、少し得意げになっていた。数々の女をこの逸物で啼かせてきた自負もある。何しろ経験だけは豊富だ。今まで少し格好悪いところを見せてしまった気もするが、それはこれから挽回していけばいい……必ず、
「っひぁ♡」
そう意気込んだ苑鬼だったが、欲望の雫を垂らし始めた先端に鍾離が口付けた途端、情けない声を上げてしまう。――刺激が強すぎる。この百年の間、苑鬼自ら手で慰めることはあったが、他人に触れられることなどなかった。
一度落ち着かせたい、と口淫から逃げようとしても、鍾離の手が腰をがっしり掴んでおりそれを許さない。
「ま、待っ――っひぃぃ♡♡」
慌てた苑鬼が上げた制止の声も虚しく、鍾離はその口腔内に亀頭を収めてしまう。熱くぬるぬるとした粘膜に敏感な箇所が包まれ、それだけで達してしまいそうになった苑鬼。必死に我慢したおかげで、咥えられただけで登り詰めるという恥辱を受けることはなかった。だが……。
「まっ、まっれ♡やめ♡」
「もう出そうなのですか? 随分と……」
「っ違う♡そんなわけがないだろうっ♡」
ちゅぽ、と口を離した鍾離が不思議そうな顔をする。苑鬼は必死に声を張り上げるが、上擦っているため説得力はない。
これから抱こうとしている相手に「随分と早いんですね」などと言われたら……立つ瀬がない。ここはなんとしても耐えなければ、と苑鬼は襟を握りしめた手に力を込めた。
「す、少し刺激が強かっただけだ! こちらは久方ぶりなんだぞ、仕方ないだろう!」
言い訳を並べ立てる苑鬼に、鍾離は何も言わず目を細める。そうして太ももの外側から手を滑らせ、尻の中心に座する窄まりを指でつついた。
「ッあ♡な、なぜそんなところを……そこは、っ♡」
「おや、苑鬼様ともあろうお方がご存知ないのですか? ココも共に刺激すればより気持ちよくなれるのですが」
「も、もちろん知っている! 当然だろう!」
「そうですか、それはよかった。遠慮などなさらず、もっと気持ちよくなってください」
動揺を滲ませながらも得意の知ったかぶりで肯く苑鬼に、鍾離はにっこりと笑った。その瞳の奥にはもはや隠すつもりもない焔が灯っていたが、生憎と苑鬼は気づかない。
自らの指を舐めて唾液を絡めた鍾離は、改めて菊座に指を這わせる。皺の一本一本を伸ばすように、丁寧に解していった。
「ぅあ……♡ひ、っ♡」
堪らず声を上げる苑鬼は、初めての感覚に戸惑っていた。気持ち良い気もするし、そうでない気もする。なんだかこそばゆくムズムズして、落ち着かない。
やがて緩み始めた
「ア、っ! や、やだぁ……」
「嫌ではないでしょう? ほら、集中してください」
「や、あ!♡今舐めっ♡」
異物感に眉を顰める苑鬼だったが、鍾離はその反応を見越していたように、苑鬼の竿の根本から先っぽを舐め上げる。肉茎への刺激に気を取られた苑鬼は、途端に蕩けた声を上げた。
苑鬼がイかない程度に竿を舐めたり、タマを食んだりと様々な技巧で翻弄する鍾離。とろとろと溢れる先走りを啜れば、一層甘い声が上がった。そうやって気を逸らしている間、鍾離の指は苑鬼の“イイところ”を探しながらナカを拓いていく。一本だった指は二本になり、三本に増え、そして。
「っひぃ!?♡♡♡」
「ココか」
「な、なに……っ♡♡」
鍾離の指がある一点を掠めた瞬間、苑鬼の肢体が跳ねた。何が起こったのかわかっていない苑鬼は、ガクガクと足を震わせながら目を白黒させていた。
彼に理解できるのは、物凄い快感に襲われたということだけ。今までに味わったことのない、身体の芯から蕩けるような肉悦が溢れ出るようだった。
「わかりますか? ココが苑鬼様の気持ちいいところですよ」
そして何度もソコを攻撃されてしまえば、瞬く間に自分はダメになってしまうだろうということ。気持ち良すぎて――死んでしまうかもしれない、なんて。
苑鬼は慌てて追撃を阻止しようとする、けれど。
「っや、ま……っ!♡」
「待ちませんよ。――ほら、イけ」
敬語の外れた鍾離が優しく囁いた。それは今の苑鬼にとっては死刑宣告にも等しい。
亀頭を咥えられ、同時にもう一度前立腺をごりっ♡とほじられ。苑鬼はなすすべなく――果てた。
「ぐ……っっ♡♡ア、ああぁぁあぁっ♡♡♡」
激しい絶頂に苑鬼は立っていられず、鍾離の頭を抱え込んでその場にへたり込む。鍾離はそんな彼のモノから噴き出した精液を残滓まで残すまいと吸い上げ、飲み下した。
畳に尻を着いてそのまま仰向けに倒れ込み、荒い息を繰り返す苑鬼。ついに着物が襦袢ごと脱げてしまったせいで、全裸で息を乱す姿は淫靡そのものだった。
苑鬼が抵抗できないのをいいことにその上へ跨った鍾離は、眼下の鬼を注視しながら緩慢な動作でベストを脱ぎ捨てた。ネクタイを弛めて解き、他の装身具と共に放り投げる。早く――早くこの█スを抱き潰してしまいたい。そんな考えに脳内が埋め尽くされてゆく。逸る気持ちを押さえつけながらベルトのバックルを外し、スラックスの前を寛げた。
「っな、に……」
ここでようやくおかしいと気づいた苑鬼がたじろぐも、もう遅い。射精後の気怠い身体では、ろくな抵抗ができるはずもない。
……それに、既に主導権を握っているのは鍾離だ。
「貴様、このわたしを……まさか……っ」
「まさか、とは? まさか、自分が男役だと思っていたのか?」
驚愕に目を見開いていた苑鬼だが、鍾離の馬鹿にするような言葉に怒りが増してゆく。
「ふざけるな! 人間ごときが、このわたしを犯すなどっ……」
「人間……クク」
「何が可笑しい……っ」
本性を露わにし激怒する苑鬼に、失笑する鍾離。ギリギリと歯を食い縛り鼻にシワを寄せる苑鬼はまさしく鬼といわんばかりの形相だったが、鍾離が臆する様子はない。それどころか彼は、この状況を愉しんでいた。
「――さっきの話には一つ、嘘がある」
「何……?」
「岩王帝君は……岩神モラクスは、死んだわけではない」
鼻先が触れ合うほどの距離まで顔を近づけ、苑鬼を見つめる鍾離。どういうことかと問おうとした苑鬼は、ざわりと周囲の空気が震えるのを感じ、その威圧感に身を竦ませた。
――岩の元素粒子が、鍾離の元に集約していく。ピキ、と小さな音がした。同時に、鍾離の頬に鱗のような琥珀色の罅が入る。口許に覗くのは鋭い牙。頭に麒麟の角が生えてそれが大きく成長したかと思えば、髪が伸び、髪飾りを壊すほどに嵩が増えてゆく。極めつけに龍の尾が生え、それは瞬く間に長さと太さを増し、苑鬼の下肢を撫でた。
鍾離と苑鬼の視線が交わる。刹那に変貌を見せた男の、ぎらついた光を放つ目の瞳孔は――
「あ、っ……まさかっ……」
男が変化してゆく様に、青褪める苑鬼。麒麟の頭と龍の体を持つ神を、契約の神とも呼ばれる岩の神を……彼は知っていたからだ。
鍾離は眼を細めて笑ってみせた。瞳の奥に捕食者の色を滾らせて。
――この瞬間、苑鬼は自分の敗北を悟った。
「非礼を働いた罪、身体で贖ってもらおうか」
すっかり萎縮している苑鬼の足を開かせ、身体を起こして再び膝立ちになった鍾離は、スラックスごと下穿きを下にずらす。すればゴムに引っかかった後にバチン!と音を立てて彼の剛直が天を衝いた。
その大きさに、苑鬼は再び驚愕することとなる。
「な、なに……」
長さにして八、九……いや、一尺はあるだろうか。中太りで一番太いところは女人の腕ほどあり、その上に張り出した亀頭は立派な傘と雁首を見せつけている。苑鬼のモノとは比べ物にならないぐらい、それはそれは立派な魔羅だった。
聳え立つその逸物を見せつけられた苑鬼はすっかり怯えて、涙目になりながらいやいやと首を振る。その一挙手一投足すべてが相手を煽っていることには気づかずに。
「そ、そんなの入るわけがっ……」
「大丈夫だ、よく解しておいたからな。それに鬼は丈夫なんだろう?」
鍾離は意地の悪い表情で、露わになった菊座にぴたりと照準を合わせる。苑鬼の顔色が一段と悪くなった。
「ひ、っや――あぁぁあああぁっ♡♡♡」
苑鬼の制止を待たず、ずぬぅぅっ♡と切っ先がナカに押し入った。身体に走る衝撃、伝わる熱の生々しさ、そして指とは比べ物にならない圧迫感に、苑鬼は目を剥いた。上手く息ができない、苦しい、それなのに――。
「ああ゛ッッ♡♡ま、まっれ――ぇぇええっ♡♡♡」
「っ……イったのか?」
でっぷりと太った亀頭が入りきってしまえば、なし崩しに事は進む。徐々に深いところを目指す巨大な砲身が通りすがりに前立腺を潰してゆき、苑鬼はぴゅ♡ぴゅっ♡と精液を漏らして達してしまった。
望まぬ歓喜に身を震わせる苑鬼。自らの意思に反し、孔は強い雄相手に媚び、簡単に屈服してしまった。自分がこんなみっともない気のやり方をするなど……有り得ない。
ああ、最悪なのに、嫌なのに――それがこんなに、気持ちいいなんて……♡
「らめっっ♡♡いまらめぇっ♡♡♡あ゛~~~っ♡♡らめっていってゆのにぃっっ♡♡♡」
髪を振り乱して身悶える苑鬼に構わず、腰を押し進める鍾離。絶頂したてのナカには辛いばかりで、苑鬼は隘路を痙攣させながら耐えられずに繰り返し達する。
「快楽に弱すぎるんじゃないか? それでよく鬼の頭領が務まるな♡」
「ひあ゛っっ♡♡♡いや♡ちが♡こんなのはじめてぇ♡♡♡――ア、ぁっ♡♡♡」
「っ……ほら、奥まで届いたぞ♡」
鍾離に罵倒されるも、今の苑鬼にはそれすら快楽の種となり得てしまう。再び精子を嬉ションしながら登り詰めてしまった。
こつ♡こつ♡と最奥の閉じた箇所をノックされ、肢体を跳ねさせる苑鬼。鍾離は初めてという言葉に気を良くしながら、今度は更にゆっくりその逸物を引き抜き始めた。その動作にこれから訪れるだろう衝撃に想像がついた苑鬼は、情けない声を上げながらゆるゆると頭を振る。
「ぁ……っ♡♡や、やだぁっ……♡♡♡」
「止めてほしいのか?」
「は、はいっ……! おねが、おねがいしましゅ♡」
ギリギリまで引き抜かれ、括約筋の輪っかに引っかかっている亀頭。あれが抜けてしまえば、きっとこの責め苦も終わる。もうこれ以上は、おかしくなってしまう。身体も、心も。
なけなしの矜持を守ろうと、呂律もろくに回らぬまま必死に懇願する苑鬼。鍾離はそんな彼に、殊更優しく微笑みかけた。
「――断る♡」
「は、っあ゛あ゛あぁぁぁぁッッ――♡♡♡♡」
鍾離の陽物がどちゅんッ♡♡♡と一気に腸壁を抉る。結腸口に思い切り叩きつけられ、苑鬼は全身を戦慄かせた。重すぎる法悦に顎が上がり、後頭部を畳に擦り付ける。痛いほど勃ち上がった陰茎は射精しておらず、淫らな雫を零すばかりで。
途切れることのない悦楽が押し寄せ、苑鬼はその波にただ翻弄される。達したのか、それとも今達している最中なのか――その判別すらつかなかった。
「初めてなのに射精せずイけたのか。全くお前は、本当にいやらしいな……っ!」
「っあ゛ぁっ♡♡あひ♡♡♡あひぃっ♡♡♡」
鍾離に詰られれば詰られるほど、苑鬼の体の熱が上がる。きゅうきゅうと隧道を締め付けるのが止まらない。
熱杭に揺さぶられ、嬌声を垂れ流す苑鬼。あんなに驕り高ぶっていた鬼の長が、“人間”に犯され乱れている。酒を呑んでいた時の皮肉げな表情は鳴りを潜め、今ではただ快楽に咽び泣く雌に成り下がった。そして、そうさせたのは紛れもない自分なのだと――鍾離は背筋を走るぞくぞくとした痺れと共に、征服欲が満たされてゆくのを感じる。
「ごえ、なしゃ♡♡♡ゆるして♡♡♡ゆるしてくだしゃいっ♡♡♡――あ゛ぁ、っ♡♡♡ぐうぅっ♡♡♡♡」
律動を止めない鍾離に、耐えられなくなった苑鬼は、ぜいぜいと喘ぎながら哀れに謝罪と懇願を繰り返す。
ああ、学ばない雌のなんと可愛らしいことか。鍾離が昂りのままもう一突きしてやれば、苑鬼は無様に白い喉を晒してまた登り詰めた。
「あ゛あ゛~~~っ♡♡♡らめっ♡♡♡らめなのぉっ♡♡♡♡」
あまりにも大きな逸物で暴力的に粘膜を擦られ続けた苑鬼。脳まで焼き切れそうな官能によって、一番高いところへと駆け上がろうとしていた。それがたまらなく怖い。自分がどうなってしまうのか、まるでわからない。
なのに鍾離は、苑鬼の哀願を無視して激しい抜き差しを続ける。それは、苑鬼が本気で嫌がっているわけではないことを見抜いているからだ。
「らめ♡♡♡くゆ♡♡♡いちばんおっきぃのくるぅぅぅっ♡♡♡♡」
「ああ、いいぞ……俺もそろそろっ、イきそうだ♡」
ガツガツと速められる抽挿。苑鬼の胎の奥が切なくきゅん♡きゅん♡と啼き、肉の筒が一層激しく収斂する。
搾り取るような媚肉の蠕動に、鍾離も余裕を崩して容赦なく腰を進めた。
「ほら、出すぞ……奥でちゃんと受け止めろ、ッ――!♡」
「あ゛♡♡らめ♡♡♡イ゛く゛っ♡♡♡イ゛っちゃゔぅぅぅ――ッッ♡♡♡♡♡」
最奥目掛けて精を放つ鍾離。その熱を感じ、苑鬼もまた一段と深い絶頂を迎える。
身体が弾けるような感覚、そして眼前が白く灼けて――苑鬼はそのまま、意識を失った。
湯桶と手ぬぐいで苑鬼の身体を清め終えた鍾離は息をついた。隣の部屋にあったそれらは彼らの
――初めから
稲妻から突然やってきたと思えば、どの仙人も手を焼いていた化け物共の巣窟を纏め上げ、百年もの間山の長として君臨し続けた鬼の頭領――苑鬼。仙人の中には勝手に山の一つを占拠されたことに怒る者もいたが、これであの小山のことで頭を悩ませることもなくなると宥める者もいた。鬼たちは特にこちらと関わったり攻撃するような気はないらしく、ただ静かに暮らしているようで。下手に干渉できず、そのままずるずると時は過ぎ。昔荒れていた小さな山のことに言及する者は、やがていなくなった。
鍾離が凡人として市井に下り、少し経った頃。そういえば、と思い出したのが件の山のことだ。ただの人間として、一度物見遊山に行ってみるのもいいだろうと足を運んだ。多数の呪いで強固に守られたその地は、一見何の気配もせず……鬼どころか動物の一匹も棲んではいないように見えた。しかし張ってあった結界の類をすり抜け、しばらく行けば見える獣道。辿って歩けばひそひそと囁く声が風に乗って聞こえてくる。急に目の前が開けたと思えば、現れたのは――大きな稲妻式の屋敷だった。
鍾離は苑鬼の傍らに寝転がり肘をついて、寝息を立てる彼を眺める。少し脅しすぎた、と反省しながら。あまりにもこちらを侮っているようだったので、意趣返しのつもりだったが……一部分とはいえ神の姿に戻るのはやりすぎたか。思ったより怯えさせてしまった。尻尾の先でそっと苑鬼の頬を撫でてやれば、眉を顰める。ああ、自分はこの鬼を気に入ってしまったようだ。その姿すら可愛らしい、と思ってしまう程度には。
しかし、と鍾離は考えに耽る。彼ら鬼が住み慣れているだろう稲妻を離れ、わざわざ璃月まで来た理由とは何だったのだろうか。何回か苑鬼に聞いたがはぐらかされてしまった。誰かと揉めたか、勢力争いに負けたか……何にせよあんなに言い渋るのだから、彼の沽券に関わるような問題には違いないだろう。
ク、と欠伸を漏らした鍾離は苑鬼を抱き寄せる。まだ抜けきらない酒精のせいか、ひどく眠かった。窓の外は白み始めている。遅くても昼にはここを発つだろう。僅かな時間だが、それまではこの体温に浸っていたい。
鬼の長を腕に抱いて、“元”岩神もまた眠りに就いた。
朝……とはいってももう昼に近い。日差しが燦々と鬱陶しいことこの上ない、とため息をついたのは廊下を歩く蒼鬼。ここを発つ時刻になっても、部屋から出てこない主と客人の様子を見に来た彼は、首を捻った。用意した部屋のうち一つが使われた気配がない。いくら好色だとはいえ、相手は男。最初はああ言っていたが、苑鬼様も流石に自重したのだろうか、などと考える蒼鬼は、相手の性別を苑鬼に伝えていないことをすっかり忘れている。
何も知らない蒼鬼の思考は続く。それとも隣の部屋に行くのすら億劫だったのか、盛り上がりすぎたのか……何にせよ一つの部屋で物事が完結したならそれはそれで良い。掃除が楽だ。そう思って彼は障子に手をかけた。
「苑鬼様、そろそろ……これは」
ひっくり返された膳、散らばった酒器、とここまでは乱痴気騒ぎで済む。しかし期待を裏切らず、その中央には……龍の尾に包まれて全裸で寝息を立てる主人の姿。傍らには、尻尾の持ち主――昨日から
「……はぁ」
まさか相手が岩神とは……頭が痛い。これはまたひと悶着ありそうだ。稲妻に引き続き、璃月まで出ることにならなければいいが……もう引っ越しは御免だ。
途轍もない面倒事の気配を察知した蒼鬼は、もう一度深くため息を吐いた後。とりあえず見なかったことにしよう、とゆっくり障子を閉めた。