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乱文

はぁ、と吐き出した息が白く残って消えていく。
夏が終わったと思ったらあっという間に寒くなり、秋は一体どこへ行ったのだと愚痴がこぼれる。

「秋はあったじゃないか。焼き芋にモンブラン。秋の味覚を十分に楽しんでいたように見えるけど」

隣を歩く長義に指摘されぐぅの音も言えなかった。普段の戦装束とは違う、街中に溶け込めるような現代服は大変よく似合っている。

「それでも、秋は短すぎる」
「それは同感だ」

政府への定期的な報告を終えた帰り道。街はハロウィンからクリスマスへと衣替えをし始めていた。それもまた秋の短さを感じる原因なのだろう。

「にしても、少々薄着なのでは?」
「建物の中は暖かいと思ったから大丈夫だと思ったんだよ」

この時期の気温差はどうにも読めない。息が白くなるほど寒い外に合わせれば、屋内では汗ばむ。汗をかいて外に出るとさらに寒さが染みるので、だったら、と思ったのだがやはりちょっと寒い。
はぁ、と長義が嘆息をする。ズボラなことは今に始まったことではないから呆れた態度はとらないほしい。ちょっと傷つく。

「ちょっとここで待っていてくれ」

近道にと公園を歩いていたとき、長義はそう言い残して離れていった。誰か知り合いでもいたのか、と思いつつも言われた通りに待っていると紙コップを持ってすぐに戻ってきた。

「ほら、これで温まるといい」

手渡されたコップはじんわりと温かく、蓋がしてあって中身は見えないが香りからココアだとわかった。

「どうしたの」
「上着を貸すよりも、体の内側から温めた方があなたにはいいかと思って。コーヒーは苦手だろう?」

執務の合間にコーヒーをよく飲んではいるものの、あくまで眠気覚ましであって好きというわけではない。飲むたびに渋い顔をしていたのがバレていたのか。ばつの悪そうな顔をしていると長義が意地悪そうに笑う。

「大切な主だからね、ちゃんと好みぐらい把握しているさ」
「さすがは優秀な監査官さん」
「お褒めに預かり光栄、かな?」
「わぁ、わざとらしい」
「あなたが先なのだが?」

他愛のないやりとりにふふっと笑みをこぼしながらカップに口をつけると、ココアの甘さが口の中に広がった。
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