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乱文

「主!」

自分を呼ぶ声に重い瞼を開ける。視界は真っ白に覆われていて、霞みが取れていくほどにようやく輪郭を掴むことができた。

「くに、ひろ」

返事をするように名前を呼び返してみたがうまく言葉にならなかった。
それでも目の前の山姥切国広は安堵の表情を浮かべた。

「どう、したの、そんなかお、で」

今にも泣きだしそうな顔に触れようと手を伸ばす。が、いつになっても山姥切国広に触れることが出来ない。どうして、と確認しようと自分の体を見ようとしたが、それは抱きしめられたことによって拒まれた。

「なんでもない、大丈夫だ」

震える声は大丈夫だなんて思えない。

「くにひろ、いま、どうなっているの」

どうしてこんなに体が重いのか。
どうしてこんなにしゃべるのがつらいのか。
目覚める前に、なにがあったのか。
少しずつ、記憶が明瞭になっていく。
そうだ、この本丸は時間遡行軍に襲撃された。結界や残っていた刀剣男士たちの善戦により敵を退けることが出来た。戦いが終わったと思ったつかの間。聞いたことのない音とともにそこで意識が途絶えたのだった。
自分を抱きしめる山姥切国広の肩越しに周りを見れば、執務室であった部屋はがれきの山となっており、壊された壁からは黒い煙と青い空が見える。
ここを直接狙ってきたのかとようやく理解して、あぁ、と自分の体について予想がついた。

「くにひろ」

名前を呼んでも彼は力を緩めない。離さない。
まるで、今にも消えてしまいそうなろうそくの炎を必死に守るように。

「主、喋らないでくれ。大丈夫だから」
「わたし、ね、このほんまる、だいすきだったよ」
「主」

いさめる声色。でもここで止まったらもう伝えられない。

「だけど、いっとう、くにひろ。おまえのことを」

愛しているよ。
ちゃんと言葉になっていただろうか。
ちゃんと、山姥切国広に伝えられただろうか。

「あるじ……?」

戸惑った声にただ一言「ごめん」と言いたかった。
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