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乱文

どうしたって暗闇というものが苦手だ。
夜はいい。月に星、人々の営みの明かりが絶対にある。
蔵の中の、物置の奥にある暗闇を、明かりを背にして見ると得も言われぬ悪寒が背筋をかけあがる。戦場の死地とは違う。嫌悪感、というのだろう。刀がそんなものを苦手とするとは驚きだ。


一度夜間に本丸から明かりが消えたことがあった。
太刀である俺は一切夜目が効かず、突然暗闇に掘り出されてしまった。最悪なことに周りには誰もおらず、ただただそこに立ちすくむしかできなくて。
ヒュッと呼吸が空回る。胸がばくばくと激しく暴れる。暑くもないのに頬を汗が伝う。
これは、まずい。
明かりを、と思ってもなにも見えない。つい先ほどまで見えていたのだから置いてあるものなどわかっているはずなのに、身動きが一切取れない。
誰か助けてくれ。
声を上げれば短刀や脇差の誰かが飛んできてくれるだろう。
なのに、空気が空回るせいで言葉にならない。
戦以外で、しかも本丸内で、命の危機を感じるなど、驚き以外なにものでもない。

「誰かいる?」

審神者の声が聞こえたと思ったら、ふわりと明かりが視界に入った。

「あ、鶴丸! いたのなら返事を」

言葉を遮るように主に抱き着いた。人の体温と明かりにようやく呼吸が落ち着き始める。

「大丈夫?」

突然抱き着いたことを咎めることもなく、背に回した手で優しくさする主に「俺は」とこぼれる。

「どうやら、暗闇がどうにもだめらしい。耐えられそうにない」
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