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その他

その横顔が寂しく見えたのは何故だろうか。

視線の先にいる友人たちはふざけあって笑いあっている。そこへ交ざればいいものの、どうしてそんな一歩引いた場所で、慈しむように見つめるのか。彼らがここにいることの幸福を噛み締めているのかと思ったがそうではない。私はもう知っている。

くい、と彼の上着の裾を引っ張れば驚いた顔してこちらを振り返った。

「今夜は冷えるので鍋がいいですね」

一拍置いて彼は私の頭をわしゃわしゃと撫で「そうだな」と笑った。

寂しく見えた理由はわからない。けれどその横顔が坂口安吾であることを私は知っている。
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