【未完】初期刀:山姥切
「これより規則に従い、評定に入る」
その後仲間と無事に合流、エリア最深部にて敵部隊を撃破。
様子をうかがっていたであろう監査官がどこからともなく姿を現し、淡々と告げる。
「聚楽第中心部における強力な敵部隊との戦闘に勝利。しかしながら、行軍中における敵の調査及び排除については不十分」
ちらりと監査官が俺の方を見る。間違いなく俺のことだ。俺のせいで評価が下がった。
襤褸布を引っ張り視線から逃げるように顔を俯かせた。
「……戦術を練り直し、再出撃せよ」
以上だ、と外套を翻し監査官は姿を消した。
残された部隊メンバーに「まんばさんのせいじゃないよ」と慰められながら帰城。さらにいたたまれない。
本丸に戻ってくると、近侍である初期刀が待っていた。部隊メンバーの安否の確認と簡単な報告を聞いているのを少し離れたところで見つめていた。顔を上げた初期刀と目が合う。反射的に目をそらしてしまったが、その直前に見た表情は、どこかほっとしたようなものだった。
このまま自室に逃げてしまいたいのだが、この部隊の隊長は俺だ。特命調査の詳細な報告を主と近侍にしなければならない。自分の失態を報告することほど気が重いものはない。
他の部隊メンバーが各々に本丸内へ戻って行ったのを見送ってから、初期刀は俺の方を向いて「行こうか」と促した。
主の部屋へ向かう道中、沈黙が続いた。以前は他愛のない会話や、それこそ先の出陣のことを話していたのだが、今は何を話したらいいのかまるでわからない。先を歩く初期刀のストールの端が揺れているのをぼんやりと目で追う。
「無事に」
初期刀が沈黙を破る。
「無事に、帰って来てくれてよかった」
前を歩いているから表情は見えないが、声色はとても優しかった。
「本科……いや、山姥切」
「俺はあそこで折れた」
俺の言葉を遮るように初期刀は立ち止まり振り返った。
「見たことのない敵がいてな。深追いをしたあまりに不意をつかれて……まったく、情けない話だ」
「見たことのない……」
脳裏をよぎったのは自分と同じ、山姥切国広の姿をした、襤褸布を纏った銀髪の敵。
「山姥切も戦ったのか?」
「なに?」
今回の調査で評価の落ち度は自分が敵を深追いしたこと。その敵の容姿と、剣を交えて勝利したこと。そのことを話すと初期刀は驚いた顔をしたあと、何かを言いたげに視線を床に落とした。
「……あぁ、恐らくお前が戦った相手こそ、俺を折った敵だ。仮想の敵とはいえ悪趣味だと思ったが」
深く息を吐いて顔を上げた初期刀と目が合い、何かを堪えるように微笑んだ。
「そいつがいるかどうかはともかく、お前まで折れてしまったら、と正直不安だった。だが帰って来た」
以前と同じように、俺を褒める言葉なのに少しも嬉しいと思えない。掻き立てられた不安をやり過ごそうと布を強く掴む。
「あの敵を倒したお前こそ、山姥切国広だ」
俺は俺だ。あんたの代わりではない。代わりになれない。それはあんたにも言えることだろう。
まるで、そんな、自分は山姥切国広にふさわしくないと、山姥切国広であることを諦めるようなこと言わないでくれ。
初期刀が元の山姥切国広に戻れる可能性がないわけではない。
けれど自分たちではどうしようもなく、初期刀の本体を預けた政府を信じて待つしかない現状。
なんの音沙汰もなく、ただただ待つしかないのはつらい。希望を持ち続けるのも楽ではない。諦めてしまえばどれほどいいのだろうか。
「……俺のような写しはいくらだっているだろう」
刀剣男士とはモノだ。モノはいくらでも複製されてありふれる。
「この本丸の初期刀、山姥切国広はあんただけだ」
それはどうしようもなく替えの利かない存在で、俺がこの本丸の山姥切国広だとしても、揺らぐことのない事実だ。
その後仲間と無事に合流、エリア最深部にて敵部隊を撃破。
様子をうかがっていたであろう監査官がどこからともなく姿を現し、淡々と告げる。
「聚楽第中心部における強力な敵部隊との戦闘に勝利。しかしながら、行軍中における敵の調査及び排除については不十分」
ちらりと監査官が俺の方を見る。間違いなく俺のことだ。俺のせいで評価が下がった。
襤褸布を引っ張り視線から逃げるように顔を俯かせた。
「……戦術を練り直し、再出撃せよ」
以上だ、と外套を翻し監査官は姿を消した。
残された部隊メンバーに「まんばさんのせいじゃないよ」と慰められながら帰城。さらにいたたまれない。
本丸に戻ってくると、近侍である初期刀が待っていた。部隊メンバーの安否の確認と簡単な報告を聞いているのを少し離れたところで見つめていた。顔を上げた初期刀と目が合う。反射的に目をそらしてしまったが、その直前に見た表情は、どこかほっとしたようなものだった。
このまま自室に逃げてしまいたいのだが、この部隊の隊長は俺だ。特命調査の詳細な報告を主と近侍にしなければならない。自分の失態を報告することほど気が重いものはない。
他の部隊メンバーが各々に本丸内へ戻って行ったのを見送ってから、初期刀は俺の方を向いて「行こうか」と促した。
主の部屋へ向かう道中、沈黙が続いた。以前は他愛のない会話や、それこそ先の出陣のことを話していたのだが、今は何を話したらいいのかまるでわからない。先を歩く初期刀のストールの端が揺れているのをぼんやりと目で追う。
「無事に」
初期刀が沈黙を破る。
「無事に、帰って来てくれてよかった」
前を歩いているから表情は見えないが、声色はとても優しかった。
「本科……いや、山姥切」
「俺はあそこで折れた」
俺の言葉を遮るように初期刀は立ち止まり振り返った。
「見たことのない敵がいてな。深追いをしたあまりに不意をつかれて……まったく、情けない話だ」
「見たことのない……」
脳裏をよぎったのは自分と同じ、山姥切国広の姿をした、襤褸布を纏った銀髪の敵。
「山姥切も戦ったのか?」
「なに?」
今回の調査で評価の落ち度は自分が敵を深追いしたこと。その敵の容姿と、剣を交えて勝利したこと。そのことを話すと初期刀は驚いた顔をしたあと、何かを言いたげに視線を床に落とした。
「……あぁ、恐らくお前が戦った相手こそ、俺を折った敵だ。仮想の敵とはいえ悪趣味だと思ったが」
深く息を吐いて顔を上げた初期刀と目が合い、何かを堪えるように微笑んだ。
「そいつがいるかどうかはともかく、お前まで折れてしまったら、と正直不安だった。だが帰って来た」
以前と同じように、俺を褒める言葉なのに少しも嬉しいと思えない。掻き立てられた不安をやり過ごそうと布を強く掴む。
「あの敵を倒したお前こそ、山姥切国広だ」
俺は俺だ。あんたの代わりではない。代わりになれない。それはあんたにも言えることだろう。
まるで、そんな、自分は山姥切国広にふさわしくないと、山姥切国広であることを諦めるようなこと言わないでくれ。
初期刀が元の山姥切国広に戻れる可能性がないわけではない。
けれど自分たちではどうしようもなく、初期刀の本体を預けた政府を信じて待つしかない現状。
なんの音沙汰もなく、ただただ待つしかないのはつらい。希望を持ち続けるのも楽ではない。諦めてしまえばどれほどいいのだろうか。
「……俺のような写しはいくらだっているだろう」
刀剣男士とはモノだ。モノはいくらでも複製されてありふれる。
「この本丸の初期刀、山姥切国広はあんただけだ」
それはどうしようもなく替えの利かない存在で、俺がこの本丸の山姥切国広だとしても、揺らぐことのない事実だ。