【未完】初期刀:山姥切
カーン……カーン……
まるで自分を呼ぶような音が刀を打っているものだと気づいたのは、とある建物の前にたどり着いたときだった。一見、そうとは見えないが、恐らく鍛冶場なのだろう。
こんな場所で打たれている刀とは一体。
疑問は好奇心へと変わり己が同胞の生まれる瞬間を見ようと屋敷へと一歩踏み出したときだった。ちりり、と火で炙られたような肌の痛みを首筋に感じ、咄嗟に左手に持った鞘ごと得物を盾にした。鈍い音と手の痺れから攻撃を防ぐことに成功したものの、攻撃を受けるような存在に殺気を感じるまで気づかなかったことへの失態に舌打ちした。攻撃された衝撃を逃すように横へと飛び、改めて敵の姿を確認する。
「なっ」
よく、知っている姿だった。
――俺が、目の前にいる。
しかし俺とは全く違う。黒い襤褸布を頭からすっぽりと身に纏い、その隙間から零れるのは銀の髪。さらにその奥の緑の瞳は鈍くこちらを睨みつけている。
その姿はまさしく、山姥切長義を写した刀工堀川国広作の刀と言うべきか。
動揺している隙をつき、相手が懐へと飛び込んできた。鞘から得物を抜いて、刀身でそれを受け止める。キン、と高い金属音がぶつかる音が辺りに響く。
「なんなんだ、お前は……!」
時間遡行軍とは様子が違う。かと言って同じ刀剣男士にも思えない。
ではこいつは一体何者なんだ。
仮想の敵とでもいうのだろうか。こいつの撃破の有無が特命調査の目的なのか。
初期刀の件で引きこもり、特命調査についての情報を得ていない自分の愚かさに苛立ちながら相手の体を押し返す。
後方に飛んだ相手は体勢を整えると静かに刀を構えた。俺がよくやる、上段の構え。撃破が目的ならやるしかない。右手に得物を、左手に鞘を握り対峙する。
「……参るっ!」
地を蹴り間合いを詰めたのは同時だった。打ち込まれては鞘と刀で防ぎ、打ち込んではひらりとかわされる。だが手ごたえが全くないわけではない。自分のように鞘を使った疑似的な二刀流ではなく、本体のみで戦ってはいるもののその動きは見慣れたものだった。
本科と、初期刀と似た動きだ。
初期刀ほどの速さがない攻撃は避けるもの防ぐのも容易い。顕現して間もない頃、手合わせをしてもらったときのことを思い出す。あの頃は敵わないと思っていた太刀筋が、今ははっきりと読める。
「その目、気に入らないな」
左下から右上へと切り上げると相手の襤褸布が頭から外れ、見慣れた銀色の髪が姿を現す。相手は大きくよろけ、膝をついた。勝負は決まった。
「 」
はくはくと口が動いていることに気づいた。なにかを話そうとしているが、声にならないようだ。一体なにを言おうと、こちらに伝えようとしているのか。
聞き取ろうと膝をついたところで、ぐいっと布を掴まれた。しまった、罠だったか。
「おくれ……」
俺の布を掴んだ手は弱く、容易く振りほどくことが出来た。
「ものがたり、を、おく、れ……」
振りほどかれた手をそのままに、なにかに縋るように伸ばしたまま、そいつはパキンとひと際高い音を立てて――折れた。
まるで自分を呼ぶような音が刀を打っているものだと気づいたのは、とある建物の前にたどり着いたときだった。一見、そうとは見えないが、恐らく鍛冶場なのだろう。
こんな場所で打たれている刀とは一体。
疑問は好奇心へと変わり己が同胞の生まれる瞬間を見ようと屋敷へと一歩踏み出したときだった。ちりり、と火で炙られたような肌の痛みを首筋に感じ、咄嗟に左手に持った鞘ごと得物を盾にした。鈍い音と手の痺れから攻撃を防ぐことに成功したものの、攻撃を受けるような存在に殺気を感じるまで気づかなかったことへの失態に舌打ちした。攻撃された衝撃を逃すように横へと飛び、改めて敵の姿を確認する。
「なっ」
よく、知っている姿だった。
――俺が、目の前にいる。
しかし俺とは全く違う。黒い襤褸布を頭からすっぽりと身に纏い、その隙間から零れるのは銀の髪。さらにその奥の緑の瞳は鈍くこちらを睨みつけている。
その姿はまさしく、山姥切長義を写した刀工堀川国広作の刀と言うべきか。
動揺している隙をつき、相手が懐へと飛び込んできた。鞘から得物を抜いて、刀身でそれを受け止める。キン、と高い金属音がぶつかる音が辺りに響く。
「なんなんだ、お前は……!」
時間遡行軍とは様子が違う。かと言って同じ刀剣男士にも思えない。
ではこいつは一体何者なんだ。
仮想の敵とでもいうのだろうか。こいつの撃破の有無が特命調査の目的なのか。
初期刀の件で引きこもり、特命調査についての情報を得ていない自分の愚かさに苛立ちながら相手の体を押し返す。
後方に飛んだ相手は体勢を整えると静かに刀を構えた。俺がよくやる、上段の構え。撃破が目的ならやるしかない。右手に得物を、左手に鞘を握り対峙する。
「……参るっ!」
地を蹴り間合いを詰めたのは同時だった。打ち込まれては鞘と刀で防ぎ、打ち込んではひらりとかわされる。だが手ごたえが全くないわけではない。自分のように鞘を使った疑似的な二刀流ではなく、本体のみで戦ってはいるもののその動きは見慣れたものだった。
本科と、初期刀と似た動きだ。
初期刀ほどの速さがない攻撃は避けるもの防ぐのも容易い。顕現して間もない頃、手合わせをしてもらったときのことを思い出す。あの頃は敵わないと思っていた太刀筋が、今ははっきりと読める。
「その目、気に入らないな」
左下から右上へと切り上げると相手の襤褸布が頭から外れ、見慣れた銀色の髪が姿を現す。相手は大きくよろけ、膝をついた。勝負は決まった。
「 」
はくはくと口が動いていることに気づいた。なにかを話そうとしているが、声にならないようだ。一体なにを言おうと、こちらに伝えようとしているのか。
聞き取ろうと膝をついたところで、ぐいっと布を掴まれた。しまった、罠だったか。
「おくれ……」
俺の布を掴んだ手は弱く、容易く振りほどくことが出来た。
「ものがたり、を、おく、れ……」
振りほどかれた手をそのままに、なにかに縋るように伸ばしたまま、そいつはパキンとひと際高い音を立てて――折れた。