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【未完】初期刀:山姥切

特命調査が始まっても思考は泥沼のままで、ほとんど反射的に敵を切っていた。
出発する際に主と近侍、初期刀が見送ってくれたがその顔をまともに見ることが出来なかった。

「――」

初期刀が最後に何か言った気がしたが、受け取りを拒むようにさっさと踵を返した。
山姥切長義を初期刀だと信じている主はどうして俺を、山姥切国広を顕現したのだろうか。初期刀に、いや、誰か他の刀にでも頼まれたのか。初期刀の魂を移すだけなら顕現の必要はなかった。その手段すら主の記憶から消えてしまい、通常の手順を踏んでしまった事故、というのがようやく見つけた自分なりの落としどころだ。
ただ顕現しただけなのに、事故のような存在だとは。偽物と呼ばれるよりも滑稽な状況に自嘲する。俺は望まれてなどいない。求められているのはこの本体のみ。刃に視線を落とすと、ひどく傷ついた顔をした自分と目が合い、逃げるようにそらした。

「あっ!」

誰かの声にはっと顔を上げると、その横を敵の短刀が通り過ぎていった。
しまったぼんやりし過ぎた。
刀を握り直し、逃げた敵の短刀を追いかけるべく地面を蹴った。
魚のような敵の短刀の動きは素早い。こちらを撒こうと右に左に道を曲がる。捉えるにも見失わないようにするのが手一杯で「くそっ」と悪態がこぼれる。
橋を渡り、大きな門をくぐったところでようやく敵の短刀に追いついた。どこぞの屋敷に迷い込んだらしく、逃げ場を失ってうろうろとその場に漂っている。
手間をかけさせてくれたな。刀を鞘に納め一気に切りかかろうとした瞬間、背後で鈍い音と自分を呼ぶ声が聞こえた。

「まんばさん!」

刀の柄に手をかけながら振り返ると、つい先ほどくぐった門は重く閉ざされている。
敵の罠だったか――!
逃げる敵を追いかけるなど、誘き寄せられたも同然。普段であれば深追いせず、部隊の動向を確認するのが鉄則だ。
敵を取り逃しただけでなく、まんまと罠にハマるとは。いくら考え事をしていたとはいえ最悪の失態である。そもそも、戦場で考え事をするのは言語両断だ。

「まんばさん、大丈夫? 敵に囲まれない?」

門の向こうから安否を確認する声が聞こえる。このくらいの高さであれば飛び越せるはずだが、何故か出来ないのだろと向こうにいる仲間たちが言う。特命調査という特殊なフィールドの影響なのだろうか。

「あぁ、こちらは問題ない。敵もほとんどいない」

ここまで追いかけてきた敵の短刀はいつの間にか姿を消していた。戦うのではなく、ここに連れてくるのが目的だったのだろうか。

「よかった。入れる場所がないか探してみるよ」
「すまない、待機している」

離れていく気配を感じつつ、改めて敷地内へと目を向ける。大名の屋敷のようだが人気はない。これも用意された戦場だからだろうか。

カン……カン……

耳を澄ますとかすかに金属音が聞こえる。戦っている音ではない。
どこか懐かしい気配を感じ、ふらふらと音が聞こえる方へと足を向けた。
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