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【未完】初期刀:山姥切

気まずい。
初期刀の存在を知ったあと、俺は逃げるように部屋に引きこもりがちになった。出陣や内番は命じられれば行っているが、初期刀と顔を見合わせるのだけは避けている。引継ぎをしていた近侍の仕事も、今は別の刀から教わっている始末だ。
このままではいけないとわかってはいるものの、どうしたらいいのかもわからない。

「……兄弟は、知っていたのか?」

洗濯物を畳んでいる兄弟、堀川国広にぽつりと投げかけた。部屋の隅で膝を抱えうずくまっている俺を一瞥したあと、再び洗濯物に視線を落とし「そうだね」と静かに答えた。

「ならどうして」
「どうして教えてくれなかったのかって? ……それは初期刀である兄弟の意思だからね」

憔悴しきった審神者の姿を見て、助けたことを後悔させたくなかった。しかし助けてもらった恩を仇で返したくない。ならば、山姥切国広という存在を審神者の中から消してしまえばいい。幸いにもそのことを知っている刀剣男士たちは少なく、その後顕現されたものたちにも「山姥切国広はこの本丸にはいない」と示すことで、審神者への嘘をさらに厚く塗り固めていった。
初期刀の考えはいやでもよくわかる。同じ山姥切国広だから。
それでも。それでも同異体の俺には話してくれてもよかったんじゃないか。膝を抱えた腕に爪が食い込む。

「自分のあとに顕現する山姥切国広には、なにも知らないままでいて欲しかったんだと思うよ。こうして、知ってしまったら抱えてしまうのをわかっていたから」

それもよくわかる。こういうところで同じ存在だということを突きつけられるのが苦しい。

「初期刀の俺は、元の姿にもう戻れないのか」

元の姿に戻れないからこそ、山姥切長義の名を名乗り、そのように振舞っているのだろうに。
このまま、本科が俺たちを呼ぶように「偽物」に成り代わったままなのか。本科からの呼び名が本当のことになっており、思わず自嘲した。

「わからない。けれど『戻れる』と監査官さんから話を聞いたって三日月さんは言っていたからね。僕たちは信じるしかないんだ」

寂しそうに笑う兄弟に何も言えなくなった。
――もしかしたら。
もしかしたら俺は、初期刀の体としてこの本丸に呼ばれたのではないか。なのに俺がすんなりと顕現してしまい戻れなくなってしまったんじゃないか。この居場所は、この体は、初期刀のもので、俺はいらないんじゃないか。
俺はどうしてここに呼ばれたのか。俺はなんのためにここにいるのか。
気まずい。居心地が悪い。
ぬかるみにはまって動けなくなり、そのままだんだんと沈んでいくような気分だ。
助けを求めて手を伸ばす先にいると信じていた本科は、もういない。
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