とうらぶ
「それじゃあ」
最低限の荷物を持って審神者は振り返る。何振りもの刀剣男士たちが揃っているのは圧巻の光景だ。この姿を見るのも今日で最後になる。もうひとりひとりとは挨拶を済ませてある。これ以上は未練が大きくなるだけだ。
「みんな、元気で!」
泣かないと決めていた。最後に笑顔で手を振り、審神者は本丸をあとにした。
審神者になったのは幼い頃だった。
物心ついたときには本丸で生活しており、近くには刀剣男士たちがいた。父親が審神者であったのだが、とある事情から隔離され気づいたら独立した本丸の主となっていた。親に会えなくて寂しいという気持ちはなかった。誰かしら傍にいたし、それが当たり前だったからだ。
審神者としての適性は高かったらしい。だがそれだけで、歳を重ねるごとに霊力は衰え、ついには新しい刀剣男士の顕現が困難になってしまった。
審神者の子どもではよくある話だと、説明に来た政府の人間は言う。親の霊力を一時的に保持して生まれてくるため霊力があると誤認され、実際には本人の霊力は全くない。まさに審神者はこれであった。親と隔離されたのはその確認のためもあったらしい。
新しい刀剣男士を顕現出来ないとなると審神者として役割を果たせなくなる。つまり引退せねばならない。
審神者が顕現した刀剣男士はこの本丸ごと引き継がれることになった。現世での生活に慣れるため、現世と本丸を行き来する期間が設けられ、審神者は徐々に刀剣男士のいない生活を知っていった。
「やぁ、おかえり」
ある日、本丸に帰ってくると山姥切長義が出迎えた。この刀が審神者はほんの少し苦手だった。初期刀である山姥切国広に対しての態度もあるが、唯一自分の力で顕現して迎えた刀ではないからだ。
「ただいま」
ぎこちなく挨拶を返し、そそくさと彼の前から逃げるように立ち去った。
そんな折り、加州清光から提案があった。
「主との思い出作りたい」
審神者を引退する際に本丸での出来事を記憶から消す、というのが通例だった。しかし近年、審神者のように本丸の中で育ってきた者が増えてきたため、幼い頃の記憶を消すのはどうかと議論になり記憶については任意となった。
記憶の保持を選んだ場合、本丸の持ち物は現世へと持ってはいけないことになった。刀剣男士が未練を辿ってしまうからだそうだ。記憶がないのにものが手元にあっても困惑するだろうと、審神者は記憶の保持を選んだ。
加州の申し出に審神者は喜んで了承した。
「どうせならこれで撮るんちゅーのは?」
陸奥守吉行が取り出したのは映像記録を残すもの。
審神者は現世に持ってはいけないが、共に過ごした刀剣男士たちが記憶だけではなくしっかりと記録を残そうとしてくれるのが素直に嬉しかった。
その日から思い出をたくさん作った。
秋田藤四郎たちとかくれんぼしたり、歌仙兼定と歌を読んだりと幼い頃そうしたように過ごした。最初は非日常の出来事ばかり記録していたがいつしか日常も記録し始め、気づけば誰かしらが審神者を撮っていた。当初は気恥ずかしかったが慣れてしまうとどうということはない。
刀剣男士の顕現が出来ないということは、手入れも出来ない。
そのため政府から本丸ごとまとまった休みをもらった。審神者にとっては最後の思い出作りだが、刀剣男士たちにとっては次の戦いに備えての休息。
ああ本丸から離れたくないな。
引っ越しの日が近づいてくると審神者は名残惜しくなってきた。引き継ぎのための手続きなどもしなくてはならないが気が進まない。そういうときに限って山姥切長義が顔を出し、作業を催促してくる。
「あとここに署名を」
「うん」
示された箇所に名前を書き終え、ちらりと山姥切長義の顔を見る。怒ったところの印象が強いせいか、こんなに穏やかな顔をしているのは新鮮に思えた。
「あのね、長義」
苛烈なだけではないことは知っていた、はずだった。それでも苦手意識が抜けなくて、そのことを謝った。山姥切長義が驚いた顔をしたあと、ふはっ、と笑った。
「そんなこと、気にしていたのか」
そんなこと、と言われてもずっと気にしていたことだ。今を逃したら今後謝る機会がないと思ったのだ。だから伝えなければ、と思った。
「知っていたよ。……知っていたし、仕方ないと思っていた」
だから気にしなくていいと笑う。
「この本丸は好きか?」
納得出来ずに不貞腐れていると山姥切長義が問いかけた。もちろん、とすぐに答えると満足げに彼は笑った。
本丸を去ってから数年。今でも時折あの本丸での出来事を思い出す。山伏国広たちと山にキャンプしに行ったり、大般若長光に宿題を見てもらったが適当な答えばかりだったりとなかなか愉快な思い出ばかりだ。
戦いの記憶もちゃんと覚えている。出陣から帰ってきた蜂須賀虎徹の髪が短くなったことにとても悲しんだこともあった。出陣先へ向かう山姥切国広の背中を何度も見送った。
今でもみんなは元気に過ごしているだろうか。連絡手段は絶たれ、ただただ思い出を丁寧になぞるしか出来ない。それでも記憶を手放さなくてよかったと元審神者は思うのであった。
さらに数年後。家族ができることになった。
出会いは政府が用意した見合いの席。相手は審神者であった。審神者の適性が高かったことを理由に元審神者が選ばれたらしい。
相手は穏やかなひとだった。嫌なところはなく拒否する理由もなかったため、つつがなく婚姻が進められた。
「昔審神者だったんだ」
相手が連れていた物吉貞宗を見て、ぽつりとこぼした。
知ってるかもしれないけど、と昔話をし始めたが相手は最後までちゃんと聞いてくれた。
「いい本丸だったんだね」
そう微笑んでくれた姿が誰かと重なった気がした。この話は初めて他人にしたので、そんな反応を見るのも初めてのはずなのに。気のせいだろうと頭を振った。
あの本丸のみんなに会いたい、と願ってはいけないことを思ってしまった。
懐かしむ元審神者の様子を見て、会えないかもしれないけど、と審神者はとある提案をした。
「それとなく調べてみるよ」
審神者ではあるが政府直属の部署に配置されている、いわば役人のような立場だったのだ。本丸に直接干渉は出来ないものの、情報として知ることぐらいは可能かもしれないと言ってくれた。
願ってもいないことだった。しかしそれで仕事になんらかしら影響が出てはいけない。出来る範囲で、無理のない範囲で、もし出来なくてもかまわないから、と元審神者はお願いした。
それから数日後。審神者が記録媒体を持って帰ってきた。
時の政府から仕事を持ち出すのは固く禁じられているはずなので、仕事関連のものではない。不思議に思っていると持ち帰ってきたそれを元審神者に渡した。
どうしたのかと聞くと審神者は顔を曇らせながらも、伝えないといけないことがある、と口にした。
結論から言えば、元審神者がいた本丸は現在存在しない。引き継がれたあとなんの問題もなく本丸は稼働していたのだが、襲撃にあってそのまま壊滅してしまった、と記録に残されていた。恐らく元審神者の霊力が弱まっていることを敵に知られていたのだろう、と審神者が推測を話していたが耳をすり抜けていく。思いもよらぬ結末に言葉を失った。戦いに身を置くということはこういうことなのだ、今さらながら痛感した。自分の記憶以外、なにもかもなくなってしまった。
泣きじゃくる元審神者を審神者の近侍を務める物吉貞宗が優しく抱きしめた。
「データを検索しているときに、とある刀剣男士からそれを渡されたんだ」
元審神者がようやく落ち着いてきたころ、渡された記録媒体を指し審神者が言う。
「政府所属のひと振りなんだけどね。きみの本丸を調べていたら、そこのかつての主と連絡を取れるのか? と聞いてきて。結婚したばかりだと伝えたらそれを」
なくなってしまった本丸にかつて元審神者がいたことを知っている刀剣男士とは。引退の説明をしに来た政府の人間が連れていたひと振りだろうか。心当たりを思い浮かべるがどれもピンとこない。
ひとまず見てみればわかるだろう、と記録媒体を起動した。
ぱっと空中に映像が映し出される。その映像に元審神者は言葉を失った。
そこにはなくなったと聞いた本丸が映し出されている。俺を撮るなと抵抗する山姥切国広が。縁側で和歌をたしなむ歌仙兼定が。しぶしぶ畑へと向かう蜂須賀虎徹が。自分とおやつを食べている加州清光が。泥まみれで自分と一緒に和泉守兼定を追いかけまわす陸奥守吉行が。自分の記憶以上の記録がそこにあって、また涙が溢れた。
「本当にいい本丸だね」
一緒に見ていた審神者がぽつりと呟いたので、自慢の本丸だった、と涙を拭って笑った。
けして長い映像ではなかった。けれどかつてそこにいた刀剣男士の姿は全員映っていた。懐かしい、という気持ちとともにふと疑問がよぎる。一体誰がこの記録を持っていたのか。所属していた誰かが政府に託したのかと思ったが、政府はこの記録をまっさきに消すだろう。誰かが懇意にしていた政府所属の刀剣男士に託すも、渡すタイミングも、預かったあとの扱いも不明のものをあいわかったとすんなり預かるだろうか。
「これを渡してきた刀剣男士って誰?」
物吉貞宗に尋ねてみたが、困った顔で微笑み「秘匿事項なので」と断られた。政府内部の情報をほいほい外に出すわけにもいかないから仕方ないことだ。
映像を何度も何度も繰り返し見ているうちに、ようやくこの記録の持ち主がぼんやりと見えてきた。元審神者が顕現した刀剣男士は全員映っている。誰かしらが常に撮影をしていたので、特定の撮影者ひと振りが映っていないということはない。
だが、ただひと振りだけ、その映像からは存在が消えていた。
恐らくそのひと振りがこの映像を編集し、元審神者の元に渡るまで大切に守ってきてくれていたのだろう。彼ならば政府に所属していてもおかしくはない。
なにせ、元は政府所属の刀だったのだから。
もし会うことが出来るのなら、思い出を守ってくれてありがとう、と伝えたい。そしてもうひとつ。
「あなたも私の本丸の大切なひと振りだったんだから」
そう文句を言ってやりたい。
映像にいない山姥切長義に元審神者は思いを馳せた。
最低限の荷物を持って審神者は振り返る。何振りもの刀剣男士たちが揃っているのは圧巻の光景だ。この姿を見るのも今日で最後になる。もうひとりひとりとは挨拶を済ませてある。これ以上は未練が大きくなるだけだ。
「みんな、元気で!」
泣かないと決めていた。最後に笑顔で手を振り、審神者は本丸をあとにした。
審神者になったのは幼い頃だった。
物心ついたときには本丸で生活しており、近くには刀剣男士たちがいた。父親が審神者であったのだが、とある事情から隔離され気づいたら独立した本丸の主となっていた。親に会えなくて寂しいという気持ちはなかった。誰かしら傍にいたし、それが当たり前だったからだ。
審神者としての適性は高かったらしい。だがそれだけで、歳を重ねるごとに霊力は衰え、ついには新しい刀剣男士の顕現が困難になってしまった。
審神者の子どもではよくある話だと、説明に来た政府の人間は言う。親の霊力を一時的に保持して生まれてくるため霊力があると誤認され、実際には本人の霊力は全くない。まさに審神者はこれであった。親と隔離されたのはその確認のためもあったらしい。
新しい刀剣男士を顕現出来ないとなると審神者として役割を果たせなくなる。つまり引退せねばならない。
審神者が顕現した刀剣男士はこの本丸ごと引き継がれることになった。現世での生活に慣れるため、現世と本丸を行き来する期間が設けられ、審神者は徐々に刀剣男士のいない生活を知っていった。
「やぁ、おかえり」
ある日、本丸に帰ってくると山姥切長義が出迎えた。この刀が審神者はほんの少し苦手だった。初期刀である山姥切国広に対しての態度もあるが、唯一自分の力で顕現して迎えた刀ではないからだ。
「ただいま」
ぎこちなく挨拶を返し、そそくさと彼の前から逃げるように立ち去った。
そんな折り、加州清光から提案があった。
「主との思い出作りたい」
審神者を引退する際に本丸での出来事を記憶から消す、というのが通例だった。しかし近年、審神者のように本丸の中で育ってきた者が増えてきたため、幼い頃の記憶を消すのはどうかと議論になり記憶については任意となった。
記憶の保持を選んだ場合、本丸の持ち物は現世へと持ってはいけないことになった。刀剣男士が未練を辿ってしまうからだそうだ。記憶がないのにものが手元にあっても困惑するだろうと、審神者は記憶の保持を選んだ。
加州の申し出に審神者は喜んで了承した。
「どうせならこれで撮るんちゅーのは?」
陸奥守吉行が取り出したのは映像記録を残すもの。
審神者は現世に持ってはいけないが、共に過ごした刀剣男士たちが記憶だけではなくしっかりと記録を残そうとしてくれるのが素直に嬉しかった。
その日から思い出をたくさん作った。
秋田藤四郎たちとかくれんぼしたり、歌仙兼定と歌を読んだりと幼い頃そうしたように過ごした。最初は非日常の出来事ばかり記録していたがいつしか日常も記録し始め、気づけば誰かしらが審神者を撮っていた。当初は気恥ずかしかったが慣れてしまうとどうということはない。
刀剣男士の顕現が出来ないということは、手入れも出来ない。
そのため政府から本丸ごとまとまった休みをもらった。審神者にとっては最後の思い出作りだが、刀剣男士たちにとっては次の戦いに備えての休息。
ああ本丸から離れたくないな。
引っ越しの日が近づいてくると審神者は名残惜しくなってきた。引き継ぎのための手続きなどもしなくてはならないが気が進まない。そういうときに限って山姥切長義が顔を出し、作業を催促してくる。
「あとここに署名を」
「うん」
示された箇所に名前を書き終え、ちらりと山姥切長義の顔を見る。怒ったところの印象が強いせいか、こんなに穏やかな顔をしているのは新鮮に思えた。
「あのね、長義」
苛烈なだけではないことは知っていた、はずだった。それでも苦手意識が抜けなくて、そのことを謝った。山姥切長義が驚いた顔をしたあと、ふはっ、と笑った。
「そんなこと、気にしていたのか」
そんなこと、と言われてもずっと気にしていたことだ。今を逃したら今後謝る機会がないと思ったのだ。だから伝えなければ、と思った。
「知っていたよ。……知っていたし、仕方ないと思っていた」
だから気にしなくていいと笑う。
「この本丸は好きか?」
納得出来ずに不貞腐れていると山姥切長義が問いかけた。もちろん、とすぐに答えると満足げに彼は笑った。
本丸を去ってから数年。今でも時折あの本丸での出来事を思い出す。山伏国広たちと山にキャンプしに行ったり、大般若長光に宿題を見てもらったが適当な答えばかりだったりとなかなか愉快な思い出ばかりだ。
戦いの記憶もちゃんと覚えている。出陣から帰ってきた蜂須賀虎徹の髪が短くなったことにとても悲しんだこともあった。出陣先へ向かう山姥切国広の背中を何度も見送った。
今でもみんなは元気に過ごしているだろうか。連絡手段は絶たれ、ただただ思い出を丁寧になぞるしか出来ない。それでも記憶を手放さなくてよかったと元審神者は思うのであった。
さらに数年後。家族ができることになった。
出会いは政府が用意した見合いの席。相手は審神者であった。審神者の適性が高かったことを理由に元審神者が選ばれたらしい。
相手は穏やかなひとだった。嫌なところはなく拒否する理由もなかったため、つつがなく婚姻が進められた。
「昔審神者だったんだ」
相手が連れていた物吉貞宗を見て、ぽつりとこぼした。
知ってるかもしれないけど、と昔話をし始めたが相手は最後までちゃんと聞いてくれた。
「いい本丸だったんだね」
そう微笑んでくれた姿が誰かと重なった気がした。この話は初めて他人にしたので、そんな反応を見るのも初めてのはずなのに。気のせいだろうと頭を振った。
あの本丸のみんなに会いたい、と願ってはいけないことを思ってしまった。
懐かしむ元審神者の様子を見て、会えないかもしれないけど、と審神者はとある提案をした。
「それとなく調べてみるよ」
審神者ではあるが政府直属の部署に配置されている、いわば役人のような立場だったのだ。本丸に直接干渉は出来ないものの、情報として知ることぐらいは可能かもしれないと言ってくれた。
願ってもいないことだった。しかしそれで仕事になんらかしら影響が出てはいけない。出来る範囲で、無理のない範囲で、もし出来なくてもかまわないから、と元審神者はお願いした。
それから数日後。審神者が記録媒体を持って帰ってきた。
時の政府から仕事を持ち出すのは固く禁じられているはずなので、仕事関連のものではない。不思議に思っていると持ち帰ってきたそれを元審神者に渡した。
どうしたのかと聞くと審神者は顔を曇らせながらも、伝えないといけないことがある、と口にした。
結論から言えば、元審神者がいた本丸は現在存在しない。引き継がれたあとなんの問題もなく本丸は稼働していたのだが、襲撃にあってそのまま壊滅してしまった、と記録に残されていた。恐らく元審神者の霊力が弱まっていることを敵に知られていたのだろう、と審神者が推測を話していたが耳をすり抜けていく。思いもよらぬ結末に言葉を失った。戦いに身を置くということはこういうことなのだ、今さらながら痛感した。自分の記憶以外、なにもかもなくなってしまった。
泣きじゃくる元審神者を審神者の近侍を務める物吉貞宗が優しく抱きしめた。
「データを検索しているときに、とある刀剣男士からそれを渡されたんだ」
元審神者がようやく落ち着いてきたころ、渡された記録媒体を指し審神者が言う。
「政府所属のひと振りなんだけどね。きみの本丸を調べていたら、そこのかつての主と連絡を取れるのか? と聞いてきて。結婚したばかりだと伝えたらそれを」
なくなってしまった本丸にかつて元審神者がいたことを知っている刀剣男士とは。引退の説明をしに来た政府の人間が連れていたひと振りだろうか。心当たりを思い浮かべるがどれもピンとこない。
ひとまず見てみればわかるだろう、と記録媒体を起動した。
ぱっと空中に映像が映し出される。その映像に元審神者は言葉を失った。
そこにはなくなったと聞いた本丸が映し出されている。俺を撮るなと抵抗する山姥切国広が。縁側で和歌をたしなむ歌仙兼定が。しぶしぶ畑へと向かう蜂須賀虎徹が。自分とおやつを食べている加州清光が。泥まみれで自分と一緒に和泉守兼定を追いかけまわす陸奥守吉行が。自分の記憶以上の記録がそこにあって、また涙が溢れた。
「本当にいい本丸だね」
一緒に見ていた審神者がぽつりと呟いたので、自慢の本丸だった、と涙を拭って笑った。
けして長い映像ではなかった。けれどかつてそこにいた刀剣男士の姿は全員映っていた。懐かしい、という気持ちとともにふと疑問がよぎる。一体誰がこの記録を持っていたのか。所属していた誰かが政府に託したのかと思ったが、政府はこの記録をまっさきに消すだろう。誰かが懇意にしていた政府所属の刀剣男士に託すも、渡すタイミングも、預かったあとの扱いも不明のものをあいわかったとすんなり預かるだろうか。
「これを渡してきた刀剣男士って誰?」
物吉貞宗に尋ねてみたが、困った顔で微笑み「秘匿事項なので」と断られた。政府内部の情報をほいほい外に出すわけにもいかないから仕方ないことだ。
映像を何度も何度も繰り返し見ているうちに、ようやくこの記録の持ち主がぼんやりと見えてきた。元審神者が顕現した刀剣男士は全員映っている。誰かしらが常に撮影をしていたので、特定の撮影者ひと振りが映っていないということはない。
だが、ただひと振りだけ、その映像からは存在が消えていた。
恐らくそのひと振りがこの映像を編集し、元審神者の元に渡るまで大切に守ってきてくれていたのだろう。彼ならば政府に所属していてもおかしくはない。
なにせ、元は政府所属の刀だったのだから。
もし会うことが出来るのなら、思い出を守ってくれてありがとう、と伝えたい。そしてもうひとつ。
「あなたも私の本丸の大切なひと振りだったんだから」
そう文句を言ってやりたい。
映像にいない山姥切長義に元審神者は思いを馳せた。