とうらぶ
史実よりも迅速に、史実よりも穏やかに、歴史を紡ぐ世界――
小高い丘にある神社に人気はなく、身を隠すのにはちょうどいい。その場所を拠点にしていた山姥切長義は華やぐ町を見つめていた。
「山姥切」
背後から声をかけられたが返事も振り返りもしない。
「あんたから見て、この世界はどうだ」
返事がないことに慣れている相手、山姥切国広は気にせず言葉を続けた。
「随分と穏やかな世界だ」
「あぁ、俺もそう思う」
「だが、それまでだ。もうすぐこの世界は歴史の流れからかけ離れ、放棄される」
あまりにも穏やかに先へ進みすぎた。
歴史の本流からあまりにもかけ離れ修復不可能と判断された場合、本流に影響が出る前に切除される。もう二度とこの時代に訪れることは出来なくなり、この先を見ることもかなわなくなる。
本来であれば本流に戻せるように刀剣男士たちが動くのだが、今回はイレギュラーが多い。
まず、改変点。わかりやすい箇所はなかったが、振り返ってみれば蝶のはばたきひとつがきっかけだった。
その後の修復ポイントもいくつかあった。けれど穏やかに進むせいで、どうしても苛烈になってしまう修復は刀剣男士の方にも躊躇いを生ませた。一部例外はあったけれども。
「――俺たちに出来ることなどもうない。あとは時の政府による放棄を待つだけだ、撤退を進言する」
「撤退……この任務は失敗ということか」
「残念ながらね。遡行軍たちも姿を見せないところを見ると、あちら側から見ても失敗だったのかもしれないのが救いかな」
歴史改変を進める時間遡行軍が姿を見せたのは最初のきっかけのときだけ。あとは勝手に狂った歯車のまま進んでいった。相手も手が出せないまま。これは望み通りなのか、それとも自分たちよりも早めに見切りをつけて撤退したか。
今回の部隊長である大包平に自分の考えと撤退を進言すべく山姥切長義は踵を返した。後ろに控えていた山姥切国広と目が合う。
「なんだい偽物くん。まさかまだ、この世界を救えるとでも思っているのか?」
「写しは偽物ではない。……あんたが言うんだ、この世界が放棄されるのは間違いないだろう。だが」
頭にかぶった布の端を掴み、くいっと引っ張りながら視線を地面に落とした。まるで山姥切長義の視線から逃げるように。その態度に気づかないわけがない。
「救う気はないが、なにか企んでいるな?」
「…………」
山姥切国広は答えず、踵を返しこちらに背を向けた。
「おいお前、一体なにを」
肩を掴み、無理にこちらを向かせようとしたが軽く振り払われた。
「あんたがいるなら問題はない」
それだけを言い残し、足早にその場を去っていた。
残された山姥切長義は振り払われた手を強く握り、くそっ、と悪態をついた。
小高い丘にある神社に人気はなく、身を隠すのにはちょうどいい。その場所を拠点にしていた山姥切長義は華やぐ町を見つめていた。
「山姥切」
背後から声をかけられたが返事も振り返りもしない。
「あんたから見て、この世界はどうだ」
返事がないことに慣れている相手、山姥切国広は気にせず言葉を続けた。
「随分と穏やかな世界だ」
「あぁ、俺もそう思う」
「だが、それまでだ。もうすぐこの世界は歴史の流れからかけ離れ、放棄される」
あまりにも穏やかに先へ進みすぎた。
歴史の本流からあまりにもかけ離れ修復不可能と判断された場合、本流に影響が出る前に切除される。もう二度とこの時代に訪れることは出来なくなり、この先を見ることもかなわなくなる。
本来であれば本流に戻せるように刀剣男士たちが動くのだが、今回はイレギュラーが多い。
まず、改変点。わかりやすい箇所はなかったが、振り返ってみれば蝶のはばたきひとつがきっかけだった。
その後の修復ポイントもいくつかあった。けれど穏やかに進むせいで、どうしても苛烈になってしまう修復は刀剣男士の方にも躊躇いを生ませた。一部例外はあったけれども。
「――俺たちに出来ることなどもうない。あとは時の政府による放棄を待つだけだ、撤退を進言する」
「撤退……この任務は失敗ということか」
「残念ながらね。遡行軍たちも姿を見せないところを見ると、あちら側から見ても失敗だったのかもしれないのが救いかな」
歴史改変を進める時間遡行軍が姿を見せたのは最初のきっかけのときだけ。あとは勝手に狂った歯車のまま進んでいった。相手も手が出せないまま。これは望み通りなのか、それとも自分たちよりも早めに見切りをつけて撤退したか。
今回の部隊長である大包平に自分の考えと撤退を進言すべく山姥切長義は踵を返した。後ろに控えていた山姥切国広と目が合う。
「なんだい偽物くん。まさかまだ、この世界を救えるとでも思っているのか?」
「写しは偽物ではない。……あんたが言うんだ、この世界が放棄されるのは間違いないだろう。だが」
頭にかぶった布の端を掴み、くいっと引っ張りながら視線を地面に落とした。まるで山姥切長義の視線から逃げるように。その態度に気づかないわけがない。
「救う気はないが、なにか企んでいるな?」
「…………」
山姥切国広は答えず、踵を返しこちらに背を向けた。
「おいお前、一体なにを」
肩を掴み、無理にこちらを向かせようとしたが軽く振り払われた。
「あんたがいるなら問題はない」
それだけを言い残し、足早にその場を去っていた。
残された山姥切長義は振り払われた手を強く握り、くそっ、と悪態をついた。