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とうらぶ

警告のアラートが鳴り響く。
それは出陣した部隊に重傷者がいることを知らせるもの。ここしばらく聞くことがなかったので本丸の空気が緊張を帯びる。
容態を確認次第すぐに手入れ部屋へ直行出来るよう手配をしている最中、今度は帰還を告げる音が鳴る。
本日の近侍である南泉が迎えに行くとそこには最悪の状況があった。
血塗れでぼろぼろの山姥切国広。
その山姥切国広の胸ぐらを掴み射殺す目付きの山姥切長義。

「犠牲になる覚悟だけでどうするつもりだ!」

元々因縁のある二振りではあるが、今回の口論のきっかけはどうやら違うところにあるらしい。他の部隊メンバーによって無理矢理ふたりが引き剥がされたところで南泉は観念して声をかけた。
重傷は山姥切国広ひと振り。肩を借りてではあるが歩けるようなのでそのまま手入れ部屋へと向かった。他の部隊メンバーはほぼ無傷で今回の出陣の報告を各々まとめるように、とその場で解散になった。
ひと振りを除いて。

「で、今回はなにが原因なんだ……にゃ」

山姥切国広から報告を受けるために手入れ部屋へ向かう南泉の隣を、不機嫌を隠さない山姥切長義が歩いていた。ぴりぴりした雰囲気を南泉はため息でやり過ごす。

「……先ほどの報告の通りだよ」

なにがあったのか、ざっくりとした報告は確かに受けた。検非違使と遭遇し撤退するも逃げ切れず、しんがりを務めた山姥切国広が重傷になった。これだけであれば、いくらいがみ合っているとはいえ山姥切長義があそこまで怒るようなものはない。
絶対にそれだけじゃない、と厄介ごとの気配を察し南泉は何度目かのため息をつく。



手入れ部屋に入ると山姥切国広は既に体を起こし、用意されていたおにぎりを頬張っていた。
隣の長義と対照的に、普段と変わらないのんびりした態度に南泉は一度目をぎゅっとつぶり覚悟を決めた。

「あー、飯を食ってるところすまない……にゃ。今回の件でお前からも話を聞いてこいって言われてて」
「山姥切の報告で問題と思うが」
「は?」
「あーあーあー。どうしたって主観が入るから、それぞれ平等に、って決まりだろ?」

それもそうだな、と山姥切国広はお茶をひとくち飲んで頷く。
それから話した内容は山姥切長義やほかの部隊メンバーによるものと大きく差異はなかった。
この内容で問題はないだろう、とようやく南泉は息をついた。

「写しでも囮ぐらいにはなるだろう」

ぽつりと呟かれたその言葉に山姥切長義が勢いよく飛びかかる。

「まだそんなことを言うかお前は!」
「落ち着け、落ち着けって!」

ふたりの間に腕を差し込みなんとか引き剝がす。

「俺を捨て置いて行けば無傷とは言わずとも退却は容易かったはずだ」
「そんなこと誰がしろと言った。主は、全員の帰還を第一の目標にしている。それを俺よりここに長くいるお前が反故にするつもりか」
「そのつもりはない。……ないが、犠牲が必要な場合もあるだろう」
「あの場面はそうだったと? ――ふざけるな。ただの自己犠牲に酔いしれているだけだ」

くそっ、と吐き捨てて山姥切長義は立ち上がり部屋を出て行った。
襖の先に消えていった背中を見送ったあと、南泉は山姥切国広の方を振り返る。先ほどのようにお茶を手にしているが、こころなしか落ち込んでいる。

「どうして……本科を守るために俺がいるというのに……」

どうして怒られているのか見当がついていない様子に、これはあいつが怒るはずだ、と南泉は嘆息した。

「写しと本科ってのは関係なく、あいつはお前を仲間として見てる。だから自分勝手な行動に怒ってるにゃ」
「だが時間を稼がないと逃げられなかった」
「その時間稼ぎをお前ひとりでやるんじゃない。……本科として、頼って欲しかったんじゃないか?」
「頼って……? 本科より俺の方が練度が高いのに?」
「こればっかりはあいつの山のように高いプライドの問題にゃ。説明しきれない」

というよりも面倒だ、と南泉は肩をすくめた。
山姥切長義の写しではあるが堀川国広の傑作でもある山姥切国広の矜持はどこで捻じれてしまったのだろう。山姥切長義はそれを正しく認識しているがゆえに、写しであることで卑屈になっている己の写しが自分の価値を低く見ていることを許せない。もっとも、山姥切国広自身はきちんと堀川国広傑作だと自己認識している。
捻じれているとしか言えない認識の面倒くささは、彼の本科のプライドの在り方に似ているとも思わなくもない。

「お前らに足りないのは対話にゃ。ちゃんと向き合って話し合ってくれ」
「対話と言われても……俺なんかが本科と話したところで……」
「自己完結する前に話し合えっつーの!」

話し合って、お互いがどう思っているか、どう向き合っているのか、わかれば多少は関係性がよくなるだろう。いやなってもらわねばならぬ。

「すまない、南泉。善処する」

席を立った南泉の背に山姥切国広が声をかけ、右手をあげてそれに応える。善処ではなく絶対話し合ってくれ、と胸中でぼやきながら部屋をあとに審神者の元へ向かった。
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