【未完】初期刀:山姥切
「まず先に、この状態であることの非礼を詫びる」
座っている監査官と向き合うように本科は膝をつき頭を深く下げた。俺はその本科の左斜め後ろに控えて座り、三日月宗近は監査官の右斜め後ろに立っていた。
監査官が無言で本科を見つめている。その視線から不愉快さが窺える。
少し間を置いて顔を上げた本科が本体を目の前に置いた。
「改めて自己紹介させてもらう。この本丸の初期刀……山姥切、国広だ」
「!」
聞き間違いだろうか。本科は俺の名を、山姥切国広を名乗った。先ほど自分は山姥切長義ではないと言っていたが、だからと言って写しの名前を口にするなど。
動揺のあまり思わず立ち上がりそうになったが、向かいにいる三日月宗近と目が合い座り直した。あんたは全てを知っていたのか、とじろりと睨みつければ口元を袖で隠し微笑むだけ。
「訳あって本科……山姥切長義の姿を借りている」
「その訳を、詳しく聞こうじゃないか」
棘のある監査官の声。自分に向けられているわけでもないのにひどく恐ろしく感じる。それはまるで初めて本科と出会ったときのような感覚だ。
「……今回同様、特命調査で聚楽第に出陣したときのことだ」
聚楽第の最深部での戦闘のおり本科━━初期刀である山姥切国広は折れた。正確には折れたものの御守りが発動し一命を取りとめたのだが、本丸に帰還後状況は一転。御守りが正しく発動していなかったらしく、本丸内で山姥切国広の本体が折れた。
すぐさま手入れ部屋に放り込んだものの、本体は折れており修復のしようがない。体の方も段々と弱まっていた。
「そのとき、主は思いついた。……本科であれば写しを救えるのでは、と」
聚楽第の調査報酬で届いていた山姥切長義の刀に、今目の前で消えかけている山姥切国広の魂を移した。
それにより初期刀である山姥切国広の魂は助かったが、体は山姥切長義のものになってしまった。
「本来ならばこのような状態で存在すべきではないとわかっている。だが、俺を助けようとしてくれた主たちの想いを無下にも出来ない」
「それで、山姥切長義として振る舞うことにした、と」
監査官が差し出された本科の本体を手に取り鞘から抜いた。
「まさしく、これは長義が打った山姥切だ。そしてお前の魂と繋がっている」
刃を、刃紋を確認し、監査官は刀を納めた。
「審神者が対応した割には先ほどの反応、あれはどういうことだ」
「俺を助けたあと、この姿を見てひどい罪悪感に襲われたようでそのストレスで倒れてしまった。そして回復したあと、俺が山姥切国広であることをすっかり忘れてしまっていた。……逃避、というべきか」
「なるほどね」
そう言うと監査官は立ち上がった。
「事情は把握した。が、それによってこの調査の評価を甘くするつもりはない。覚悟して挑め」
外套をひるがえし監査官が歩き出し、それに三日月宗近がついていく。
残された本科、いや、初期刀と俺との間に沈黙が流れる。
あまりの情報の量に思考が追いつかない。
目の前にいる本科は、刀は本科であるが中身は写し。
この本丸の初期刀であるのは本科ではなく写し。
そして俺は━━やはり二振り目の山姥切国広だった。
座っている監査官と向き合うように本科は膝をつき頭を深く下げた。俺はその本科の左斜め後ろに控えて座り、三日月宗近は監査官の右斜め後ろに立っていた。
監査官が無言で本科を見つめている。その視線から不愉快さが窺える。
少し間を置いて顔を上げた本科が本体を目の前に置いた。
「改めて自己紹介させてもらう。この本丸の初期刀……山姥切、国広だ」
「!」
聞き間違いだろうか。本科は俺の名を、山姥切国広を名乗った。先ほど自分は山姥切長義ではないと言っていたが、だからと言って写しの名前を口にするなど。
動揺のあまり思わず立ち上がりそうになったが、向かいにいる三日月宗近と目が合い座り直した。あんたは全てを知っていたのか、とじろりと睨みつければ口元を袖で隠し微笑むだけ。
「訳あって本科……山姥切長義の姿を借りている」
「その訳を、詳しく聞こうじゃないか」
棘のある監査官の声。自分に向けられているわけでもないのにひどく恐ろしく感じる。それはまるで初めて本科と出会ったときのような感覚だ。
「……今回同様、特命調査で聚楽第に出陣したときのことだ」
聚楽第の最深部での戦闘のおり本科━━初期刀である山姥切国広は折れた。正確には折れたものの御守りが発動し一命を取りとめたのだが、本丸に帰還後状況は一転。御守りが正しく発動していなかったらしく、本丸内で山姥切国広の本体が折れた。
すぐさま手入れ部屋に放り込んだものの、本体は折れており修復のしようがない。体の方も段々と弱まっていた。
「そのとき、主は思いついた。……本科であれば写しを救えるのでは、と」
聚楽第の調査報酬で届いていた山姥切長義の刀に、今目の前で消えかけている山姥切国広の魂を移した。
それにより初期刀である山姥切国広の魂は助かったが、体は山姥切長義のものになってしまった。
「本来ならばこのような状態で存在すべきではないとわかっている。だが、俺を助けようとしてくれた主たちの想いを無下にも出来ない」
「それで、山姥切長義として振る舞うことにした、と」
監査官が差し出された本科の本体を手に取り鞘から抜いた。
「まさしく、これは長義が打った山姥切だ。そしてお前の魂と繋がっている」
刃を、刃紋を確認し、監査官は刀を納めた。
「審神者が対応した割には先ほどの反応、あれはどういうことだ」
「俺を助けたあと、この姿を見てひどい罪悪感に襲われたようでそのストレスで倒れてしまった。そして回復したあと、俺が山姥切国広であることをすっかり忘れてしまっていた。……逃避、というべきか」
「なるほどね」
そう言うと監査官は立ち上がった。
「事情は把握した。が、それによってこの調査の評価を甘くするつもりはない。覚悟して挑め」
外套をひるがえし監査官が歩き出し、それに三日月宗近がついていく。
残された本科、いや、初期刀と俺との間に沈黙が流れる。
あまりの情報の量に思考が追いつかない。
目の前にいる本科は、刀は本科であるが中身は写し。
この本丸の初期刀であるのは本科ではなく写し。
そして俺は━━やはり二振り目の山姥切国広だった。