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とうらぶ

「とりっくおあとりーと」

やる気のない声に長義はため息をついた。
今日は異国の祭りの真似事をするのだと主がはりきっていた。と言ってもお菓子交換がメインの、いたって平和な祭事だ。
決まり文句を言ってきた相手にお菓子を渡す、それだけ。
今日ばかりは子どもの姿をしている短刀だけではなく、仮装をしたありとあらゆるお菓子目当てのものたちが参加している。
つい先ほど肥前が顔に雑なペイントをしてお菓子をねだりに来たので、大袋のポテチを渡したところだ。
そして次に来たのが、これまた雑な仮装をしている自分の写し。布を頭からかぶっただけで、普段と違うところと言えば顔を完全に隠しているところぐらいか。

「おまえ、それ」

仮装しているつもりなのか、と悪態をつきそうになったが今日は無礼講なのだと主が言っていたことを思い出す。

「とりっくおあとりーと」

やる気のない声に催促されて、少々苛立ちながらも用意していた菓子を渡す。

「ほら、これでいいだろ」

ここは洋菓子を渡すのがセオリーなのだろうが、長義が渡したのは一本の羊羹。
老舗和菓子店の羊羹で、写しがいつぞや食べたときに「おいしい」と瞳を輝かせていたのをそっと買っていたものだ。
羊羹を受け取った写しは戸惑った様子で羊羹をまじまじと見つめ、触っていた。まさか長義が持っていると思っていなかったのだろう。

「なんだ、羊羹じゃ不満か?」

苛立ちを隠さず聞くと勢いよく首を横に振り、そのあと大きく縦に振ってそそくさと去っていった。
そのあと短刀たちが訪れてはお菓子を渡し、そろそろ用意していた分が終わりそうな頃。

「本科、菓子をくれ」

頭に軽く包帯を巻いた写しが再びやってきた。
先ほど以上に横柄な態度と、二度目の来訪に思わず「は?」と声が出た。

「お前、さっき渡しただろ?」
「? いや、本科のところに来るのははじめてだが?」
「何を言っている、さっき布をかぶってきたじゃないか」

まっすぐこちらを見つめる瞳にはやましさなどなく、嘘をついていないことはすぐに知れた。
この本丸は二振り目を顕現はおこなっていない。山姥切国広は今目の前にいるただひと振りのみ。

「……じゃあ、さっきのは誰なんだ」

己が写しを間違えたか、と思ったが気配はまごうことなき写しのそれだった。

「まぁなんだ、とりあえず菓子をくれ」
「さっき来た偽物くんの方がちゃんと趣旨を理解していたよっ」

自分用に残しておいたもう一本の羊羹を乱暴に押し付けた。
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