朧という刀
山姥切長義と接触してから変化があった。不安定であった体がしっかりと安定し、敵である刀剣男士のような姿になったのだ。動きも心なしか軽く、これならばひとりでも問題はないと思えた。
山姥切長義に会うことが俺に必要な物語だったのか。
これならば俺はあいつに認めてもらえるだろうか。
あいつ……
「あいつとは、一体誰だ?」
俺の目的は物語を集めること。集めて、三日月宗近に接触すること。ならばあいつとは三日月宗近を指すはずだが、そうではないと違和感が主張する。
わからない。誰なんだお前は。俺が認めてほしい相手は誰なんだ。
『誰でもよいではないか。お前は山姥切国広の影なのだから』
「やまんばぎり、くにひろ……?」
『そうだ。山姥切長義の写しである山姥切国広、その影よ。認めてもらえずとも影は常にそこにあるもの。気にせずともよい』
この姿は山姥切国広のものだが、俺は俺だ。影という、本体がなければ存在できないものではないはず。
気にしなくともよいと言われても、今ここにいる理由がひっかかる。
間もなくこの歴史も終わる。黒田孝高の姿を借りて様子を伺っていると、いくつもの戦闘を駆け抜けてきた山姥切長義が現れた。
黒田孝高として戦闘後離脱する予定であったが、山姥切長義は<俺>の存在に気づいたようだ。
「俺たちは刀だ。刃を持って語ろう」
「どこかで聞いたことがある台詞だな……!」
この歴史で会うのは初めてだった。会話も数えるほどしかしていない。それなのに聞いたことがある台詞だと言う。
「この、紛い物め……!」
戸惑っていると、俺にも聞いたことがある台詞を投げつけられた。
――なんで。
なんで、あんたがその台詞を言うんだ。
それは俺が生まれるときに投げつけられた言葉だ。祝福だ。呪いだ。――存在する理由だ。
黒田孝高の姿を脱ぎ捨て、山姥切国広の姿をまとう。
「これでも同じことが言えるか、山姥切長義」
山姥切長義の前に立つとひどく不愉快そうな顔をし、切っ先をこちらに向けてきた。
そうだ。俺たちは刀だ。刃を持って語るしかない。
「俺こそが長義が打った、山姥切だ!」
手負いとはいえ刀剣男士。油断せずに数で攻めればいつぞやのように折れるだろう。
だが実際はどうだ。あれだけ多くいた味方がたった一振りによって斬り伏せられているではないか。怪我と疲労により動きが鈍くなっているのを見逃すわけにはいかない。
俺は辿り着かねばならないのだ。物語を集め、三日月宗近へと。そして認めてもらうのだ。俺は望まれて生まれてきた存在だと!
こちらの攻撃を受け流す防戦一方の山姥切長義だったが僅かに膝をつく。好機だと思い切り刀を振り下ろした。
キンッ――
振り下ろした刃が受け止められた高い音と共に、山姥切長義の笑い声があたりに響く。
「……ほざくな」
強い力で押し返され思わず体がよろける。視界の端で銀色がきらめき咄嗟に避けた。それをきっかけに怒涛の剣撃が襲いかかってくる。避ける、逃げるが精一杯で反撃する隙がない。
「うっ……」
山姥切長義の刀がついに俺の体を捉えた。悪あがきで振り上げた鞘も受け止められた。
「貴様は山姥切国広ではない。――山姥切国広を名乗ることは俺が許さない!」
強い怒りと共に引き裂かれる体。
物語を、俺が認められるに至る、物語をおくれ……
俺が、本歌に、認められる…………
パキン。小さな音と共に俺の意識はそこで途絶えた。
山姥切長義に会うことが俺に必要な物語だったのか。
これならば俺はあいつに認めてもらえるだろうか。
あいつ……
「あいつとは、一体誰だ?」
俺の目的は物語を集めること。集めて、三日月宗近に接触すること。ならばあいつとは三日月宗近を指すはずだが、そうではないと違和感が主張する。
わからない。誰なんだお前は。俺が認めてほしい相手は誰なんだ。
『誰でもよいではないか。お前は山姥切国広の影なのだから』
「やまんばぎり、くにひろ……?」
『そうだ。山姥切長義の写しである山姥切国広、その影よ。認めてもらえずとも影は常にそこにあるもの。気にせずともよい』
この姿は山姥切国広のものだが、俺は俺だ。影という、本体がなければ存在できないものではないはず。
気にしなくともよいと言われても、今ここにいる理由がひっかかる。
間もなくこの歴史も終わる。黒田孝高の姿を借りて様子を伺っていると、いくつもの戦闘を駆け抜けてきた山姥切長義が現れた。
黒田孝高として戦闘後離脱する予定であったが、山姥切長義は<俺>の存在に気づいたようだ。
「俺たちは刀だ。刃を持って語ろう」
「どこかで聞いたことがある台詞だな……!」
この歴史で会うのは初めてだった。会話も数えるほどしかしていない。それなのに聞いたことがある台詞だと言う。
「この、紛い物め……!」
戸惑っていると、俺にも聞いたことがある台詞を投げつけられた。
――なんで。
なんで、あんたがその台詞を言うんだ。
それは俺が生まれるときに投げつけられた言葉だ。祝福だ。呪いだ。――存在する理由だ。
黒田孝高の姿を脱ぎ捨て、山姥切国広の姿をまとう。
「これでも同じことが言えるか、山姥切長義」
山姥切長義の前に立つとひどく不愉快そうな顔をし、切っ先をこちらに向けてきた。
そうだ。俺たちは刀だ。刃を持って語るしかない。
「俺こそが長義が打った、山姥切だ!」
手負いとはいえ刀剣男士。油断せずに数で攻めればいつぞやのように折れるだろう。
だが実際はどうだ。あれだけ多くいた味方がたった一振りによって斬り伏せられているではないか。怪我と疲労により動きが鈍くなっているのを見逃すわけにはいかない。
俺は辿り着かねばならないのだ。物語を集め、三日月宗近へと。そして認めてもらうのだ。俺は望まれて生まれてきた存在だと!
こちらの攻撃を受け流す防戦一方の山姥切長義だったが僅かに膝をつく。好機だと思い切り刀を振り下ろした。
キンッ――
振り下ろした刃が受け止められた高い音と共に、山姥切長義の笑い声があたりに響く。
「……ほざくな」
強い力で押し返され思わず体がよろける。視界の端で銀色がきらめき咄嗟に避けた。それをきっかけに怒涛の剣撃が襲いかかってくる。避ける、逃げるが精一杯で反撃する隙がない。
「うっ……」
山姥切長義の刀がついに俺の体を捉えた。悪あがきで振り上げた鞘も受け止められた。
「貴様は山姥切国広ではない。――山姥切国広を名乗ることは俺が許さない!」
強い怒りと共に引き裂かれる体。
物語を、俺が認められるに至る、物語をおくれ……
俺が、本歌に、認められる…………
パキン。小さな音と共に俺の意識はそこで途絶えた。