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【未完】初期刀:山姥切

「山姥切さん!」

短刀たちの声で我に返る。出遅れたものの俺も本科の元へと駆け寄った。

「大丈夫ですか?」
「なにか監査官さんの気に障るようなことが?」

矢継ぎ早に繰り出される質問を本科は左手を上げ止めさせた。

「問題はないよ。彼が怒った理由も把握している。……これから俺は監査官どのに改めて謝罪をしてくるから、主のことを頼んだよ」

ストールにすがりついていた主の手を優しく引き剥がし本科は立ち上がった。人垣をかき分けて、俺の目の前で立ち止まる。
触れてはいけない話題に触れたときのような冷たい視線ではないが、しん、と感情が鎮まった瞳は恐ろしかった。

「国広の」

名前を呼ばれ背筋を正す。

「お前もついてこい」

今回の出来事に関して、俺はなにも知らない。一部始終を見ていたわけでもない。
ではどうして、と考えると写しである自分がなにかやらかしたとしか思いつかない。優しい本科のことだ、俺をかばって殴られたのかもしれない。
それならついていくのが道理だ。

「……わかった」

俺の返事にほっとしたような、だが少し寂しげに本科は微笑み「こっちだ」と踵を返した。



「お前にはいずれ話さないといけないと思っていた」

道中、本科がぽつりと呟いた。
向かっている先はどうやら道場のようだ。客人をもてなす部屋は、いつもであれば先ほど本科が殴られた場所。他に応対出来る部屋らしい部屋はなく、否応なしといったところか。

「それは、あんたが殴られたことに関係があるのか?」
「関係がある。むしろそれが原因だ」
「……俺が写しだからか?」
「違う。殴られた原因とお前に話さなければならないことは同じだが、お前はなにひとつ悪くないんだ」

それは一体なんなんだ、と口を開く寸前、本科が立ち止まり振り返った。

「俺は山姥切長義ではない」
「……えっ?」

本科の言葉が理解出来ず、思わず聞き返した。
本科が本科ではない?だが目の前にいるのは山姥切国広の本科である山姥切長義だ。顕現した直後に逃げ出したくなる衝動に駆られたのを未だに覚えている。本能が本科だと認識したからこその反応だ。

「詳しくは監査官や三日月宗近と一緒に話をする」

混乱している俺を置いて本科が再び歩き出したので、慌てて追いかけた。
聞きたいことが、確認したいことがいくつもある。それらを尋ねる間に監査官の元に辿り着いてしまう。
何か話そうにも何を言えばいいのかわからず、口を開いてはすぐに閉じる。
目の前では本科のストールが揺れている。手を伸ばせばすぐに届く距離。掴めば歩みを止めてくれることを知っている。だが止めてどうする。これから話をすると言われているのに、わざわざそんな真似をしてどうするのだ。
思考がぐるぐるとうずまき、なにひとつ行動に移せないまま目的地に到着した。
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