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【未完】初期刀:山姥切

頭から外套をすっぽりとかぶり、目元まで落とす影はその顔を隠す。しかしどことなく知っている気配がする。
本丸を訪ねてきた監査官を三日月宗近が案内しているのを庭から遠目で見ていた。一度こちらを見たような気がするが気のせいだろう。
いよいよ特命調査が始まる。気軽にやればいいと言われたが、政府が介入しているも同然の調査だ。緊張しない方が難しい。それとも俺だけが、やたら緊張しているのか。
情けない、と肩を落としていると監査官が案内された方からなにやら騒ぎが聞こえてきた。



「ふざけるな!」

何事かと他の刀剣男士らと共に向かうと、監査官が声を荒げていた。ひどく怒っているようだが一体なにがあったというのか。さらに身を乗り出して部屋の様子を見てぎょっとした。
本科が左頬を抑えて座り込んでいる。監査官が右手を強く握りしめているのを見るに、監査官に本科が殴られたようだ。

「一体なんのつもりだ!」

監査官が強い怒りをぶつける。
本科に寄り添う審神者はひどく怯えていた。
ここに案内してきた三日月宗近はというと、本科たちと監査官の間に立ち静観している。
どうして止めに入らないんだ。三日月宗近の練度であれば問題はないだろう。政府の刀だから手が出せないのか。それなら俺が止めるしかない。監査官に手を出して政府から処罰されるのであれば、この本丸への影響がほとんどない写しである俺が最適だ。
前にいる短刀たちの肩を軽く押し、すぐにでも刀を抜いて飛び出せるように身構える。

「まんばさん、だめだよ」

小声で信濃藤四郎が止めるがやめるつもりはない。
本科が殴られたのだ。それで心穏やかでいられるはずがない。
監査官が一歩、本科の方へと踏み出した。
止めなければ。
そう決めて踏み出しかけたとき、くいっ、と刀を持ち上げられた感覚が鞘を掴む左手に伝わる。振り返ると兄弟、堀川国広がこじりを掴んで少しばかり持ち上げていた。

「兄弟」

それだと刀が抜けない。やめるように呼んでみたが、首をゆっくりと横に振られ断られてしまった。

「この俺がわからないと思ったのか」

座り込んだままの本科の前に監査官がしゃがみ目線を合わせる。隣にいる審神者には一切目もくれない。

「山姥切の名だけでは飽きたらず、姿も奪うつもりか……!」

監査官が手を伸ばしたところで、ようやく三日月宗近が動き、ふたりの間に鞘で割り込んだ。

「……どういうつもりかな?」
「話の途中ですまないが、他の刀剣男士たちが集まってきていてな。込み入った話であればまた別の場を設けたいと思うのだが……」

三日月宗近がこちらに視線を向けると、つられるように監査官もこちらを見た。一瞬目があったように思ったがすぐにそらされ、舌打ちと共に立ち上がる。

「本作戦への参加は任意である……が、政府は戦いの長期化に懸念を示している。実力を示す機会は、無駄にしないことだ」

外套を翻し監査官が歩き出し、その先にいた刀剣男士たちが道を開ける。

「不満なら反乱を起こしてもいいが……まあ、無事ではすまないな」

そう言い残して部屋をあとにする。それに三日月宗近が同行し、その場に残った刀剣男士たちはそれを黙って見送るしかなかった。
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