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【未完】初期刀:山姥切

「は?」

遠征から戻り主への報告を他の部隊メンバーに任せようやくひといきをついたころ、近侍を任されていた三日月宗近から受けた報告に間の抜けた声が出た。

「特命調査だ」

人払いをして二振りっきりの部屋の中、三日月宗近はにこりと微笑みもう一度繰り返した。

「政府から入電があってな。参加は任意ということで主に話した結果、参加することになった」

今まで特命調査の通知が来ていなかったわけではない。しかしずっと見送っていたのに急にどうして、と嫌な予感がする。

「これが今回の内容になる」

なにかきっかけがあったのだろうか。思い当たる節を考えてみるが特にはない。それなら主の気まぐれか、と考えながら差し出された資料に目を通す。

「! こ、ここは……!」
「そう聚楽第だ」

三日月宗近の表情は変わらない。
聚楽第。少なからず因縁のある場所に思わず資料を持つ手に力が入る。
主は俺とこの場所の関係性を知らない。もし知っていたなら、覚えているのなら、参加を拒否するはず。
そもそも、特命調査を見送るように仕向けていたのは俺だ。まだ実力が相応しくないとかなんとか助言し、見送らせていた。
それなのに、よりにもよって舞台が聚楽第の特命調査への参加を表明するとは。

「あんた、なにを考えているんだ」
「なに、二回目の特命調査だ。勝手知ったる方が楽だと思ってな」
「そうじゃない、どうして」
「聞いたぞ。修行の案内が届いたそうだな」
「!」

政府から届いた修行案内。不具合だということであの場にいたもの以外には話していない。
どうしてそれを知っているんだ。いや、三日月宗近相手に隠し事をするのが無駄なのかもしれない。この刀はなぜだかすべてを知っている。
ちっ、と思わず舌打ちをして乗り出していた身を引いた。

「いい機会だと思わないか? 山姥切」
「……あれは、政府の不備だ」
「だが、届いた」
「っ、俺は、違うっ。俺は、山姥切でなければならないんだ」

生かされた日から考えて、考えて、考えて、諦めて、決めたのだ。こうするしかない。こうするしかなかった。
他にどうしたらよかったんだ、と思わずに口から出そうになって無理矢理飲み込んだ。

「……すまない、困らせるつもりはなかった。ただ、もう進んでもいいのではないかと思ってな」
「どこに進めって言うんだ……」
「少なくとも、ここではない場所に」

少し寂しげに、困ったように笑ったあと三日月宗近は部屋をあとにした。
残された俺は再び特命調査の資料に目を通した。前回参加したときと全く同じ内容だ

「また、あんたに会うことになろうとはな」

『後日政府から監査官が派遣されます。』
自嘲気味にその一文を指でなぞった。
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