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【未完】初期刀:山姥切

主が倒れた。
ここ数日の心身の負担を考えればそれもそうだろう。大事をとって数日休むことになり、その間出陣などの主の霊力を必要とする業務はなしとなった。
そうなると近侍である俺の仕事は当然減る。主と一緒に休むといい、と仲間たちに言われて素直に自室に引きこもった。
朝、微睡みを堪能するのが心地よい。心地よいが、このまま怠惰になってしまいそうで怖かった。もう既に朝食を食べに行くのが億劫になってしまい、このまま昼まで寝てしまおうと布団に潜った。
近侍の仕事をしているときはあれこれやることが多く、ひとつの思考にとらわれることが少ない。だが今は自然と自分と向き合ってしまう。自分の、不安と後悔が、頭の中にずっと居座る。

――本当にこれでよかったのか。

その問いは常に付きまとっていた。
主はこうするしかなかったと謝罪した。感謝はもちろんあるが、もうひとつの選択肢を選んでも問題なかったのでは、と。

――このままであり続けていいのか。

いいわけがない。こんな歪な在り方を認めてしまってはいけない。
ではどうするのか。
選択肢はふたつ。ひとつは、主のことを思うと出来れば避けたいが最もベストな選択。
もうひとつは、主や仲間たちに要らぬ負担をかけてしまうが、こうして助けられた自分に課されたものだと思えばどうということはない。

「兄弟、起きてる?」

障子の向こう、気配と声に布団から顔を出す。
起きている、と答えると障子が開き堀川国広が顔を出した。

「朝ごはん食べに来なかったから、おにぎり持ってきたよ」
「すまない」

上体を起こし、布団の横に座った兄弟からおにぎりを受け取る。口に含むと、ぱりっとした食感が控えめにあった。

「体調が悪いわけではないみたいだね」
「……なぁ、兄弟」
「なに?」
「俺が、この姿で居続けることを選んでも、兄弟でいてくれるか?」

その問いに水色の瞳を瞠目させたが、すぐにふわりと微笑んだ。

「……もちろんだよ。姿は違えと兄弟は兄弟さ」

その言葉で胸が少し軽くなった。
ならば主のためにも俺は存在し続けなければならない。

「なにか、決意したんだね」
「あぁ……兄弟には迷惑をかけると思うが、俺は本科に恥じぬようにこの本丸いようと思う」

残りのおにぎりを頬張ると鮭のしょっぱさが喉を刺激した。慌てて兄弟が差し出してくれたお茶を流し込む。

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