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【未完】初期刀:山姥切

本科が古参なのはしばらくすればすぐにわかった。
交代制とはいえほとんど近侍を務めているし、本丸内での相談事はだいたい本科に集まる。
出陣することは少ないが全くしないわけではない。俺をはじめ、顕現したばかりの刀剣男士たちの引率をしている。俺も何度か一緒に出陣した。そのときの戦いっぷりを見れば己との練度の差を嫌でもわかる。あくまで本科は新人の補助、ではあるが強敵や逃げようとする敵には容赦なく刃を向ける。

「そら、お前たちの死が来たぞ……!」

鞘を使った二刀流のような動きは流れるように滑らかで、気づけば敵は地に伏していた。
いつか本科のようになれるのだろうか。写しには厳しいかもしれない。だが目標にするぐらいは許されるだろう。


近侍はこなすものの本科はなぜか万屋には付き添わない。万屋へ用事があるとき、その都度同行したい刀剣男士を募る。俺も何度か行ったことがあるが、なんということはないただの雑貨屋だった。万屋のある街も主と一緒に散策したし、みたらし団子を買い食いしたこともある。そのときは本科へ土産を買った。驚いたものの受け取ってくれたのが嬉しかった。
主に本科が同行しない理由を聞いた。こういう場所が苦手なのだと、苦笑気味に答えられた。それならば仕方ない。


演練にも本科は参加しない。近侍の仕事があるからだと本科自身は言っていたが、本当にそうなのだろうか。他の刀剣男士が近侍をしているときは演練に参加しているのを見かけたことがある。長谷部とか。
なにか本丸を離れられない事情があるのだろうか、と考えたこともある。近侍だから、と言われればそれ以上は聞きづらい。だが近侍でも演練に参加したり、万屋に同行したりは出来るのを知ってしまった。
それに出陣をしているのだから、本丸から離れられないわけではない。戦いが嫌いなわけでもないのも知っている。共に出陣したとき、あの高揚した美しい横顔は刀剣男士の本能と言ってもいいようなものだった。


「おや、どうしたんだい偽物くん」

演練を終え主の手続きを待っている間、本科のことを考えていたら、まさにその本科から声をかけられてとても驚いた。

「う、写しは偽物と違うっ」

しかし自分の呼び名が違うことに、すぐに違う本丸の本科だと気づく。振り返るとよその本科は腰に手を当てまじまじとこちらを見つめていた。その視線に居心地が悪く、頭の布を強く引く。

「迷子かな?」
「……主を、待っている」

ふぅん、と返事をしたものの本科はまだこちらを見ている。なにか用事があるのか。本科からこうも視線を投げつけられるのは気まずくて仕方がない。

「お前の本丸に山姥切長義はいるのか?」

思いがけない問いに本科の顔を見た。どこまでも深い蒼い瞳と目が合い息を飲む。本科の瞳はこんな色だっただろうか。

「いる、が……」
「……そうか」

顔を寄せまじまじとひとの顔を見たあと「失礼する」と本科は去っていった。一体なんだったのかさっぱりわからない。困惑しながら本科の背を見送っていると主が戻ってきた。
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