朧という刀
カーン……カーン……――
鉄を打つ音。生まれる音。
俺が俺という意識を持ち始めた頃に聞いた音。
『■■■■の■■を打ってもらいたい』
『おぉこれはまさしく■■■■の傑作』
『■■■の宝刀になろう』
願われた存在。価値のある存在。求められた存在。
俺は、ひとびとに祝福されて生まれるのだ。
『――この紛い物め』
生まれる直前に、ひどい言葉を投げつけられた。
どうしてそんなことを言うんだ。俺は望まれて生まれるというのに。
『貴様は断じて■■■■■ではない!』
どうして。
俺は願われたのに。
どうして。
俺は求められたのに。
どうして。
どうして、あんたが否定するんだ。
「俺は――!」
声を上げたときにはもう姿はなかった。
紛い物とはなんのことだ。俺に一体なにが足りないというんだ。
こんなにもひとびとに望まれて、求められて生まれたというのに。
『物語が足りないからだ』
耳元で誰かが囁く。
それがどういう意味なのかわからない。けれど足りないのであれば補うしかない。
「どうすればいい」
どうしたら物語を集められる。
どうしたら俺を否定したあいつに認めてもらえる。
『こちらの指示に従ってくれるなら、お前の望みを叶えてやろう』
声に導かれるまま、生まれた聚楽第をあとにする。ここを離れても大丈夫なのかと問うと、いずれ閉ざされる場所だ、と返された。つまりここにいてはあいつに認めてもらえないままになっていた、ということか。それは嫌だ。連れ出してくれたことに感謝を述べる。
『なに、利害の一致さ。早速だが仕事を任せるとしよう、山姥切国広の影よ』
物語を集める。それが俺に与えられた目的であり手段だった。
あのとき俺を否定したあいつに認めさせるには物語で自分を強くするのが手っ取り早いと姿なき声は言う。
正しい流れから切り離され、やがて消えていく歴史を辿る。誰かが望んだ理想の時代。だがそれは否定され、滅ぼされてしまう。
まるで俺のようだと思った。
望まれて生まれたのに否定され、助けてもらえなければあのまま消えていたかもしれない。
――なぜ、望みは否定されなければならない。
――なぜ、望まれたのに消されなければならない。
その答えを得ようと、歴史をなぞる。ありえたかも知れないありえない歴史を何度も何度も何度も。
やがてひとつの道が見える。三日月宗近。それに手が届けばきっと俺の求める答えが見つかるはずだ。
物語を。三日月宗近に繋がる物語を。
「物語をおくれ」
邪魔するものを斬る。それさえも物語になる。
次に物語を集めるように指示された場所は慶長熊本。黒田官兵衛の姿を借りて物語をなぞる。いや、ここでは孝高だったか。名前などどれでもいい。俺ではないのだから。
「ところで黒田孝高どの」
予想通り現れた刀剣男士たち。歴史改変を望むものとの和解は当然決裂、去り行く前にひとりの刀剣男士が黒田孝高の前に立つ。
「どこかで、お会いしたとこはあったかな?」
「さぁ? 刀はいくつか持っていたがお前のような刀は持っていたか……まさかへし切長谷部ではあるまい?」
「山姥切長義だ」
ぱちり。何かが嵌まる音がした。
「そうか。……なら、初対面のはずだが?」
初対面。そう初対面だというのに、ひどく胸がざわつく。
刀剣男士たちが去り、各々が動き出してひとりになったときに言葉を舌で転がす。山姥切長義。知らないのに知っている。
俺の目的は物語を集めることだ。ひとつの刀に固執している場合ではない。
『生まれたばかりの赤子の扱いなど容易いものよ。あっという間に目的と手段が入れ替わる』
鉄を打つ音。生まれる音。
俺が俺という意識を持ち始めた頃に聞いた音。
『■■■■の■■を打ってもらいたい』
『おぉこれはまさしく■■■■の傑作』
『■■■の宝刀になろう』
願われた存在。価値のある存在。求められた存在。
俺は、ひとびとに祝福されて生まれるのだ。
『――この紛い物め』
生まれる直前に、ひどい言葉を投げつけられた。
どうしてそんなことを言うんだ。俺は望まれて生まれるというのに。
『貴様は断じて■■■■■ではない!』
どうして。
俺は願われたのに。
どうして。
俺は求められたのに。
どうして。
どうして、あんたが否定するんだ。
「俺は――!」
声を上げたときにはもう姿はなかった。
紛い物とはなんのことだ。俺に一体なにが足りないというんだ。
こんなにもひとびとに望まれて、求められて生まれたというのに。
『物語が足りないからだ』
耳元で誰かが囁く。
それがどういう意味なのかわからない。けれど足りないのであれば補うしかない。
「どうすればいい」
どうしたら物語を集められる。
どうしたら俺を否定したあいつに認めてもらえる。
『こちらの指示に従ってくれるなら、お前の望みを叶えてやろう』
声に導かれるまま、生まれた聚楽第をあとにする。ここを離れても大丈夫なのかと問うと、いずれ閉ざされる場所だ、と返された。つまりここにいてはあいつに認めてもらえないままになっていた、ということか。それは嫌だ。連れ出してくれたことに感謝を述べる。
『なに、利害の一致さ。早速だが仕事を任せるとしよう、山姥切国広の影よ』
物語を集める。それが俺に与えられた目的であり手段だった。
あのとき俺を否定したあいつに認めさせるには物語で自分を強くするのが手っ取り早いと姿なき声は言う。
正しい流れから切り離され、やがて消えていく歴史を辿る。誰かが望んだ理想の時代。だがそれは否定され、滅ぼされてしまう。
まるで俺のようだと思った。
望まれて生まれたのに否定され、助けてもらえなければあのまま消えていたかもしれない。
――なぜ、望みは否定されなければならない。
――なぜ、望まれたのに消されなければならない。
その答えを得ようと、歴史をなぞる。ありえたかも知れないありえない歴史を何度も何度も何度も。
やがてひとつの道が見える。三日月宗近。それに手が届けばきっと俺の求める答えが見つかるはずだ。
物語を。三日月宗近に繋がる物語を。
「物語をおくれ」
邪魔するものを斬る。それさえも物語になる。
次に物語を集めるように指示された場所は慶長熊本。黒田官兵衛の姿を借りて物語をなぞる。いや、ここでは孝高だったか。名前などどれでもいい。俺ではないのだから。
「ところで黒田孝高どの」
予想通り現れた刀剣男士たち。歴史改変を望むものとの和解は当然決裂、去り行く前にひとりの刀剣男士が黒田孝高の前に立つ。
「どこかで、お会いしたとこはあったかな?」
「さぁ? 刀はいくつか持っていたがお前のような刀は持っていたか……まさかへし切長谷部ではあるまい?」
「山姥切長義だ」
ぱちり。何かが嵌まる音がした。
「そうか。……なら、初対面のはずだが?」
初対面。そう初対面だというのに、ひどく胸がざわつく。
刀剣男士たちが去り、各々が動き出してひとりになったときに言葉を舌で転がす。山姥切長義。知らないのに知っている。
俺の目的は物語を集めることだ。ひとつの刀に固執している場合ではない。
『生まれたばかりの赤子の扱いなど容易いものよ。あっという間に目的と手段が入れ替わる』