1
Your Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
毎日窓から覗くのは灰色の空
工場から上る煙が筋となって雲に溶けていく
四角い木枠の間からその様子を見て
自分の現状から意識を外らせていても
すぐに母親の甲高い癇癪の声が家中に響き渡り、嫌でも現実に引き戻される
手に持っていた洗濯物を抱え直し、すぐに母の待つリビングへと小走りで向かう
今回は頬を殴られるだけで済むだろうか
私の住むスピナーズ・エンドは
工場の立ち並ぶ住宅地だ
けれど実際に稼働している工事はまばらで殆どが廃墟と化し、いつも外には普段何の仕事をしているかわからないような人達が昼間から目的もなくぶらついている
父は仕事を失った後、母と幼い私と残して何処かへ消えた
残された母は仕事をしながら私を育ててくれているが、いつの頃かおかしくなって、私に怒鳴り、暴力を払うのが当たり前になってしまった
頬を腫らしたまま外へ出ようとも
街の人達は気にも留めなかった
ここはそういうところなんだ
人の心も灰色の煙に覆われてしまっている
家事の大半を私が担っていた
母は昼は家で寝ていて、夜は仕事で出掛けて行く
母方の祖母が残したこの家も、二人で暮らすのが漸くな程狭かった
自室なんて与えてもらえる筈もなく
帰宅する母をすぐ迎え入れられるように
私はいつも玄関で寝ていた
今朝も帰ってきた母の機嫌は頗る悪く、
朝から私を罵り、八つ当たる
私は出来るだけやるべき事をすぐに終わらせ
母に顔を見せないようにしていた
夕飯の買い出しにでる時だけが
私にとっての心が安らぐ時間だった
あまり長くは外にでられないが、
母の声の聞こえない唯一の時間だった
彼女の所望する今日の献立に必要なものを間違えないように覚え誦じながら店へ向かう
途中いつもの道が工事で使えなくなっていた
仕方なしに遠回りを余儀なくされ、私はいつも使わない住宅地の細道へ足を踏み入れた
私の家のある場所よりも少しひらけて治安の良い地区である
幾つかの家からは夕飯の支度の香りがした
普通の家庭は、どういうものなんだろう
買い物以外に外に出してもらえず、
家の中で母と二人
ずっとこんな生活が続いていくのだろうか?
考え方をしているうちに曲がり角につきあたる
左手側には公園があり、子供が二人遊んでいた
私と同じくらいの歳の子だ
男女一人ずつ、少し赤みがかった髪の女の子と、艶のある黒髪の男の子
二人は向かい合い大きな木の下で何か話しているようだった
友達
彼女達はそういうものなのだろう
私にはいままで得られたことのない概念だ
そもそも話し相手すら母以外にいたことのない私には声の掛け方もわからない
ただ、きっと
羨ましい、という気持ちが
私をその場に縫いとめていた
…いけない、いかなくては
母に怒られてしまう
踵を返そうとした時に、
私は驚きの瞬間を捉えた
先程の少年達の足元から
ふわりと、植物が舞い上がる
足下から吹き上げた風が木の葉と小花を操って
まるでダンスを踊るようにフワフワとあたりを漂った
二人は私に気付いていないようだった
二人の世界に浸っていた
その"幸せ"な様子を
私は外から見ていた
これが私が初めて魔法をみた瞬間だった。
工場から上る煙が筋となって雲に溶けていく
四角い木枠の間からその様子を見て
自分の現状から意識を外らせていても
すぐに母親の甲高い癇癪の声が家中に響き渡り、嫌でも現実に引き戻される
手に持っていた洗濯物を抱え直し、すぐに母の待つリビングへと小走りで向かう
今回は頬を殴られるだけで済むだろうか
私の住むスピナーズ・エンドは
工場の立ち並ぶ住宅地だ
けれど実際に稼働している工事はまばらで殆どが廃墟と化し、いつも外には普段何の仕事をしているかわからないような人達が昼間から目的もなくぶらついている
父は仕事を失った後、母と幼い私と残して何処かへ消えた
残された母は仕事をしながら私を育ててくれているが、いつの頃かおかしくなって、私に怒鳴り、暴力を払うのが当たり前になってしまった
頬を腫らしたまま外へ出ようとも
街の人達は気にも留めなかった
ここはそういうところなんだ
人の心も灰色の煙に覆われてしまっている
家事の大半を私が担っていた
母は昼は家で寝ていて、夜は仕事で出掛けて行く
母方の祖母が残したこの家も、二人で暮らすのが漸くな程狭かった
自室なんて与えてもらえる筈もなく
帰宅する母をすぐ迎え入れられるように
私はいつも玄関で寝ていた
今朝も帰ってきた母の機嫌は頗る悪く、
朝から私を罵り、八つ当たる
私は出来るだけやるべき事をすぐに終わらせ
母に顔を見せないようにしていた
夕飯の買い出しにでる時だけが
私にとっての心が安らぐ時間だった
あまり長くは外にでられないが、
母の声の聞こえない唯一の時間だった
彼女の所望する今日の献立に必要なものを間違えないように覚え誦じながら店へ向かう
途中いつもの道が工事で使えなくなっていた
仕方なしに遠回りを余儀なくされ、私はいつも使わない住宅地の細道へ足を踏み入れた
私の家のある場所よりも少しひらけて治安の良い地区である
幾つかの家からは夕飯の支度の香りがした
普通の家庭は、どういうものなんだろう
買い物以外に外に出してもらえず、
家の中で母と二人
ずっとこんな生活が続いていくのだろうか?
考え方をしているうちに曲がり角につきあたる
左手側には公園があり、子供が二人遊んでいた
私と同じくらいの歳の子だ
男女一人ずつ、少し赤みがかった髪の女の子と、艶のある黒髪の男の子
二人は向かい合い大きな木の下で何か話しているようだった
友達
彼女達はそういうものなのだろう
私にはいままで得られたことのない概念だ
そもそも話し相手すら母以外にいたことのない私には声の掛け方もわからない
ただ、きっと
羨ましい、という気持ちが
私をその場に縫いとめていた
…いけない、いかなくては
母に怒られてしまう
踵を返そうとした時に、
私は驚きの瞬間を捉えた
先程の少年達の足元から
ふわりと、植物が舞い上がる
足下から吹き上げた風が木の葉と小花を操って
まるでダンスを踊るようにフワフワとあたりを漂った
二人は私に気付いていないようだった
二人の世界に浸っていた
その"幸せ"な様子を
私は外から見ていた
これが私が初めて魔法をみた瞬間だった。
1/3ページ