鳥籠の中で飛翔せよ

 改造実験に使っている魔獣に逃げられた。自分の不始末は、自分でなんとかする。いつか先輩に、そうしろと言われた。今がそのときなんだ。魔獣が学園の敷地内で人間を襲うなんてこと、あってはならない。
「待って!」
 と言ったって、魔獣が聞いてくれるわけもなく。できるだけ早く走って、魔獣を追いかける。片付け忘れて肩にかけたままのショルダーバッグが邪魔だ。冷たい汗が背中を滑り落ちる。
 一般棟は講義中だから、キャンパス内の人影はまばらだ。気配を探る。魔獣が逃げていったのは、普段から人のいない一般棟の裏庭。これなら、誰にも見られずに済むかもしれない。
 ――目撃者がいたら、始末しろ。
 特別講義の先生が命じた言葉だった。でも、あたしはそんなことはしたくない。だから、見つからないことを祈るしかなかった――それなのに。

 ポニーテールをアレンジした茶髪。本が入っているであろう大きなバッグ。
 よりによって、一般棟の裏庭に、レイラがいた。コウモリと向かい合って、じりじりと後ずさっている。
「魔獣? なんでここに――」
「見ないで!」
 レイラは顔をあげて、あたしの方を見た。ああ、これはごまかせない。言い訳できないほどはっきりと認識されてしまっている。――でも、後には引けない。このままにしておいたら、コウモリの標的になるのはレイラなのだ。
「セリカ?」
「レイラ、お願い、何も見ないで」
 もうこうなったら、どうにかしてこの状況を強行突破するしかない。彼女が頷いて蹲る。他には誰もいないのを確認して、あたしは――戦った。

 適合者が受ける特別講義には、触手を使った戦闘訓練も含まれている。そして、あたしは実技の成績には自信がある。結果として、大した傷も追わずに魔獣をバラバラにした。その血と屍は、消えないまま、残る。全部拾い集めて、何も考えずにバッグに詰めた。触手と魔法である程度血の跡をごまかしながら、起き上がる親友の様子を見る。

 適合者にあってはならないこと。ひとつは、自分の正体を知られること。もう一つは、軍事研究の証拠を目撃されることだ。――レイラには、きっと、どちらも見られてしまった。
「ねえ、セリカ。いまの魔獣って」
 レイラは青ざめた顔であたしを見た。そして、何も言わなくなった。きっとそれが答えだ。
「誰が何を聞いてきても、何も見なかったって言って。お願い。ほんとうに、お願い!」
 それだけ言い残して、レイラの声も無視して、あたしは逃げるように走った。いや、実際に逃げたのだ。
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