鳥籠の中で飛翔せよ
最近、なんだかおかしい。魔獣退治のときの記憶がない。しかも、魔獣の屍はボロボロに刻まれていて、回収が大変で仕方ない。ただ、あたし自身には傷一つないところを見ると、そこそこの立ち回りで戦ってはいるのだろう。ただ、周囲の木々もバッサリと切り倒してしまったことがあった。なんなんだろう、これは。胸に黒いもやが落ちる。これじゃああたしは、得体のしれない生物だ。急に怖くなった。じりじりと迫ってきていた疑問。あたしは帝国の改造兵士。果たして人間と呼べるのか?そうでなければ、異形なのか?
そんな不安に苛まれていたとき、クリス先輩に呼び出された。人の少ないに引っ張られる。こういうことは前にもあった。アーロンさんが勝手についてきた。二人の先輩は、今ではあたしを仲間として信頼してくれている。だからこその、三人だけの空間。でも、いつもと比べてずっと、空気がぴりっとしている。あたしからは何も言い出せない。
「お前には伝えた方がいいだろうな」
クリスさんの口調は険しい。
「最近、改造兵士――『イェーガー』の研究が中断されたらしい」
何が起こったのか、あたしにはよくわからなかった。不可解を刺し貫いたのは次の言葉。
「以降、各国に散った改造兵士たちが、何者かによって次々に殺されている。帝国内で研究に関して、何かトラブルがあったのだろう。なぜ改造兵士が殺されているかは不明だ」
――改造兵士が襲われている。そして、あたしも改造兵士だった。つまり。
「あたしも、狙われるときがくるのかな」
近い未来、そうなるだろう。いったい誰が何の目的であたしの同類たちを殺しているのかはわからない。胸の中が不安で埋まっていく。落ちていく視線。
ただでさえ調子が変なのに、誰かが殺しに来るかもしれないなんて。
そのとき、ぽん、と肩を叩かれる。
「向こうで何があったか知らないが、お前が危ないのは確かだ。身の回りに気を付けておいた方がいい」
「大丈夫。そんときゃオレらが総出で守ってやるよ」
アーロンさんが言う。いつもの調子だった。
「また勝手なことを」
クリスさんが返す。いつもの調子だった。
「とか言って、一番アリサのこと気にしてるくせに。けど、本当になんで、今更改造兵士が?」
「個人による行動という可能性もある。いまは原因より対策だ」
「そういうことじゃなくて!」
仲がいいんだか悪いんだか、ちょっとわかりづらい二人。リックさんが二人を兄弟と呼ぶのはそういうところだ。変わらない様子の先輩たちに、あたしはなんだか元気をもらった。人を殺したのに、酷いことをしたのに、あたしはここにいていい。仲間なんだ。
「平気です、あたしがしっかりやりますから。そのときは、先輩たちと一緒に戦って、怖いひとを撃退しちゃいましょう」
あたしの先輩は優しい人ばかりで、意地悪を言われたことも、触れられたくないところに突っ込まれたこともない。そして、こんなあたしでも守ってくれるというのだ。
守られるだけじゃなく、いつか先輩たちを守れたら。
そうすれば「いま」のあたしも、少しは幸せになれると思った。たとえ罪人でも、人間らしくいられると思った。けれど、自分にはその権利がないのだと、あたしは少し後に知ることになる。
そんな不安に苛まれていたとき、クリス先輩に呼び出された。人の少ないに引っ張られる。こういうことは前にもあった。アーロンさんが勝手についてきた。二人の先輩は、今ではあたしを仲間として信頼してくれている。だからこその、三人だけの空間。でも、いつもと比べてずっと、空気がぴりっとしている。あたしからは何も言い出せない。
「お前には伝えた方がいいだろうな」
クリスさんの口調は険しい。
「最近、改造兵士――『イェーガー』の研究が中断されたらしい」
何が起こったのか、あたしにはよくわからなかった。不可解を刺し貫いたのは次の言葉。
「以降、各国に散った改造兵士たちが、何者かによって次々に殺されている。帝国内で研究に関して、何かトラブルがあったのだろう。なぜ改造兵士が殺されているかは不明だ」
――改造兵士が襲われている。そして、あたしも改造兵士だった。つまり。
「あたしも、狙われるときがくるのかな」
近い未来、そうなるだろう。いったい誰が何の目的であたしの同類たちを殺しているのかはわからない。胸の中が不安で埋まっていく。落ちていく視線。
ただでさえ調子が変なのに、誰かが殺しに来るかもしれないなんて。
そのとき、ぽん、と肩を叩かれる。
「向こうで何があったか知らないが、お前が危ないのは確かだ。身の回りに気を付けておいた方がいい」
「大丈夫。そんときゃオレらが総出で守ってやるよ」
アーロンさんが言う。いつもの調子だった。
「また勝手なことを」
クリスさんが返す。いつもの調子だった。
「とか言って、一番アリサのこと気にしてるくせに。けど、本当になんで、今更改造兵士が?」
「個人による行動という可能性もある。いまは原因より対策だ」
「そういうことじゃなくて!」
仲がいいんだか悪いんだか、ちょっとわかりづらい二人。リックさんが二人を兄弟と呼ぶのはそういうところだ。変わらない様子の先輩たちに、あたしはなんだか元気をもらった。人を殺したのに、酷いことをしたのに、あたしはここにいていい。仲間なんだ。
「平気です、あたしがしっかりやりますから。そのときは、先輩たちと一緒に戦って、怖いひとを撃退しちゃいましょう」
あたしの先輩は優しい人ばかりで、意地悪を言われたことも、触れられたくないところに突っ込まれたこともない。そして、こんなあたしでも守ってくれるというのだ。
守られるだけじゃなく、いつか先輩たちを守れたら。
そうすれば「いま」のあたしも、少しは幸せになれると思った。たとえ罪人でも、人間らしくいられると思った。けれど、自分にはその権利がないのだと、あたしは少し後に知ることになる。