鳥籠の中で飛翔せよ
それからまた少し経つと、あたしにとって、魔獣退治と書類整理は日常になっていた。あたしが元帝国軍だということは、知っている人もいれば知らない人もいる。けれど、記憶喪失であることはだいたいの人に知られていたので、あまり聞かれることはなかった。
その正体を最初に突き止めたのは、暗躍や潜入を生業とするクリスさんだった。
「帝国の――改造兵士?」
「ああ。アリサと特徴が一致している。帝国で開発された技術で、人間にスライムを植え付けたらしい」
凄腕の諜報員であるそのひとによると。帝国では人間にスライムと呼ばれる半生命体を移植して、さらに強化することで改造兵器にしているらしい。帝国出身のあたしもその一員である可能性が高いんだとか。なるほど、あたしの触手はスライムなのか。
「そういった非人道的な兵器が秘密裏に作られていて、二年戦争で初めてその姿を見せた」
「ヒトを勝手に兵器にするなんて……ひどい」
「おれもそう思う。だが、帝国は実際にそういうことをする国だ」
冷静な様子でクリスさんが返す。ありえない話じゃない。そもそもほかの国を征服してる時点で、あの国に平和を求めちゃいけない。
思い出されるのは、ただひとりの親友のことだ。
(あの子も、改造されたわけじゃないよね?)
でも、あたしは兵士として二年戦争に行った。つまり、帝国は戦争をしていた。そして、過去のあたしは戦場で死んだ。
(レイラは、まだ帝国にいるの? そこで生きてるの?)
会いたい。その気持ちはある。けれど、変わり果てたあたしに彼女が気づいてくれるだろうか。なにより、レイラはいま生きているのだろうか。
……あたしは、ひどい。大切な友達なのに、死んでることばかり考える。
「レイラ……」
「って、誰?」
「わわ、先輩!」
気が付くと、二人の先輩がこちらをのぞき込んでいた。それはもう心の底からびっくりした。ごめんごめん、とアーロンさんが頭を掻く。いつのまに、二人にここまで近づかれていたのか。考え込み過ぎた。
「よくわかんねえけど、アリサにも事情の一つや二つくらいあるよな」
ということは、このひとたちにも何かがあるのだろうか。それに関しては、クリスさんに遮られて聞きそびれてしまった。
「大切な人がいるなら、心の底でずっと想っているべきだ。生きていようが、死んでいようが。この世界から、その人が消えてしまわないように」
クリスさんは少し遠い目をしていた。その意味をあたしが知ることはない。
――大切な人。そう、レイラはかつてのあたしの親友で、いまのあたしの、唯一といってもいい手掛かりだ。その思い出の確かさを知るためにも、あたしは彼女に会いたい。
その正体を最初に突き止めたのは、暗躍や潜入を生業とするクリスさんだった。
「帝国の――改造兵士?」
「ああ。アリサと特徴が一致している。帝国で開発された技術で、人間にスライムを植え付けたらしい」
凄腕の諜報員であるそのひとによると。帝国では人間にスライムと呼ばれる半生命体を移植して、さらに強化することで改造兵器にしているらしい。帝国出身のあたしもその一員である可能性が高いんだとか。なるほど、あたしの触手はスライムなのか。
「そういった非人道的な兵器が秘密裏に作られていて、二年戦争で初めてその姿を見せた」
「ヒトを勝手に兵器にするなんて……ひどい」
「おれもそう思う。だが、帝国は実際にそういうことをする国だ」
冷静な様子でクリスさんが返す。ありえない話じゃない。そもそもほかの国を征服してる時点で、あの国に平和を求めちゃいけない。
思い出されるのは、ただひとりの親友のことだ。
(あの子も、改造されたわけじゃないよね?)
でも、あたしは兵士として二年戦争に行った。つまり、帝国は戦争をしていた。そして、過去のあたしは戦場で死んだ。
(レイラは、まだ帝国にいるの? そこで生きてるの?)
会いたい。その気持ちはある。けれど、変わり果てたあたしに彼女が気づいてくれるだろうか。なにより、レイラはいま生きているのだろうか。
……あたしは、ひどい。大切な友達なのに、死んでることばかり考える。
「レイラ……」
「って、誰?」
「わわ、先輩!」
気が付くと、二人の先輩がこちらをのぞき込んでいた。それはもう心の底からびっくりした。ごめんごめん、とアーロンさんが頭を掻く。いつのまに、二人にここまで近づかれていたのか。考え込み過ぎた。
「よくわかんねえけど、アリサにも事情の一つや二つくらいあるよな」
ということは、このひとたちにも何かがあるのだろうか。それに関しては、クリスさんに遮られて聞きそびれてしまった。
「大切な人がいるなら、心の底でずっと想っているべきだ。生きていようが、死んでいようが。この世界から、その人が消えてしまわないように」
クリスさんは少し遠い目をしていた。その意味をあたしが知ることはない。
――大切な人。そう、レイラはかつてのあたしの親友で、いまのあたしの、唯一といってもいい手掛かりだ。その思い出の確かさを知るためにも、あたしは彼女に会いたい。