鳥籠の中で飛翔せよ
「だから、遅いなら合図か何かくれよ!」
ある日、任務を終えてギルドの本部に戻ると、アーロンさんとクリスさんが口論していた。
「現に今帰ってきたんだ、問題ないだろ。通信を使うほどの任務じゃないし、合図を送る手段もないんだ」
「けど……隠れて無理してるんじゃないのか? そうだ、怪我してないよな?」
「傷はない。それでいいか?」
「苦戦したわけじゃないんだな、じゃあなんで遅れてきたんだ? 説明くらい――」
「遅れるときくらい誰にだってあるだろ!」
「それはそうだけど……心配なんだよ!」
アーロンさんが声を荒げる。帰ってきたあたしには、どうやら気づいていないらしい。間に入ろうか迷って、迷っている間に、後ろから呼ばれた。
「おかえり、アリサ。あの二人はまたやってるのか」
振り向くと、リックさんが来ていた。慣れた様子だ。二人の先輩は普段から言い合いをしているけれど、ここまで激しいものは見たことがなかった。
「ケンカ、ではないですよね」
「二人はいつもああだよ。アーロンはクリスに対して過保護でね」
「みたいですね」
あたしの相槌で話を区切って、リックさんが一歩踏み込んだ。
「クリス。任務が終わったなら、報告書を提出に行くのはどうかな」
「リックさんは、アリサの出迎えですか?」
「君たちのことも気になってね。アリサは初めての後輩だろう?」
クリスさんとリックさん。二人の間には、違う空気が流れていた。互いが互いを値踏みするような、真剣な沈黙。それを打ち破って、リックさんが場の主導権を握る。
「アーロンも。クリスが大切なのはわかるけど、アリサが困ってたよ。あんまり後輩に迷惑をかけないこと」
アーロンさんはばつの悪い顔をして頭を掻く。クリスさんは目線だけをこちらに向けて、任務完了の手続きに向かっていった。先輩の先輩が、あっという間に揉め事を終わらせてしまった。たぶんリックさんには、得体の知れない何かがある。
「こんなこと、よくあるんですか?」
「二人が打ち解ける前からそうだったね。アーロンが心配して、クリスが反発して」
「そうなんですか」
「まあ二人にも、大変な時期があって」
「なるほどです」
会話を続けながら、どんどん上の空になっていった。仲のいい二人。特別な誰か。記憶の中のあたしとレイラも、ちょっとした言い合いをしたり、逆に楽しいお話をしていた。そういう他愛のない日々は、確かに覚えている。
あたしがヒトじゃない改造人間だとしても、彼女はそれを受け入れてくれたはずだ。だってレイラを思い出すたびに、胸が温かくなる。
でも、それなら、レイラはどこ? いま帝国に行けば、あたしは彼女に会えるだろうか?
レイラともう一度会えたら、あたしはどうするだろう。先輩たちのようになりたいと思った。でも、心配するだけじゃなくて、自分から彼女を守ってあげたい。大切にするって、きっとそういうことだ。
ある日、任務を終えてギルドの本部に戻ると、アーロンさんとクリスさんが口論していた。
「現に今帰ってきたんだ、問題ないだろ。通信を使うほどの任務じゃないし、合図を送る手段もないんだ」
「けど……隠れて無理してるんじゃないのか? そうだ、怪我してないよな?」
「傷はない。それでいいか?」
「苦戦したわけじゃないんだな、じゃあなんで遅れてきたんだ? 説明くらい――」
「遅れるときくらい誰にだってあるだろ!」
「それはそうだけど……心配なんだよ!」
アーロンさんが声を荒げる。帰ってきたあたしには、どうやら気づいていないらしい。間に入ろうか迷って、迷っている間に、後ろから呼ばれた。
「おかえり、アリサ。あの二人はまたやってるのか」
振り向くと、リックさんが来ていた。慣れた様子だ。二人の先輩は普段から言い合いをしているけれど、ここまで激しいものは見たことがなかった。
「ケンカ、ではないですよね」
「二人はいつもああだよ。アーロンはクリスに対して過保護でね」
「みたいですね」
あたしの相槌で話を区切って、リックさんが一歩踏み込んだ。
「クリス。任務が終わったなら、報告書を提出に行くのはどうかな」
「リックさんは、アリサの出迎えですか?」
「君たちのことも気になってね。アリサは初めての後輩だろう?」
クリスさんとリックさん。二人の間には、違う空気が流れていた。互いが互いを値踏みするような、真剣な沈黙。それを打ち破って、リックさんが場の主導権を握る。
「アーロンも。クリスが大切なのはわかるけど、アリサが困ってたよ。あんまり後輩に迷惑をかけないこと」
アーロンさんはばつの悪い顔をして頭を掻く。クリスさんは目線だけをこちらに向けて、任務完了の手続きに向かっていった。先輩の先輩が、あっという間に揉め事を終わらせてしまった。たぶんリックさんには、得体の知れない何かがある。
「こんなこと、よくあるんですか?」
「二人が打ち解ける前からそうだったね。アーロンが心配して、クリスが反発して」
「そうなんですか」
「まあ二人にも、大変な時期があって」
「なるほどです」
会話を続けながら、どんどん上の空になっていった。仲のいい二人。特別な誰か。記憶の中のあたしとレイラも、ちょっとした言い合いをしたり、逆に楽しいお話をしていた。そういう他愛のない日々は、確かに覚えている。
あたしがヒトじゃない改造人間だとしても、彼女はそれを受け入れてくれたはずだ。だってレイラを思い出すたびに、胸が温かくなる。
でも、それなら、レイラはどこ? いま帝国に行けば、あたしは彼女に会えるだろうか?
レイラともう一度会えたら、あたしはどうするだろう。先輩たちのようになりたいと思った。でも、心配するだけじゃなくて、自分から彼女を守ってあげたい。大切にするって、きっとそういうことだ。