鳥籠の中で飛翔せよ

 あれから時は経ち。あたしが参加したらしい戦争が終わった。帝国は海辺の国を征服し、ドゥサージュ王国への航路を手に入れた。まだ正式には公表されていないけれど、クリスさんが持ってきた情報なのだから、たぶん本物なのだろう。
ギルド中が慌ただしくなって、やがていつも通りに戻る。帝国がこちらに手を伸ばさないことがわかったからだ。

 あたしは今が、それなりに幸せだ。魔獣と戦ったり、情報の整理をしたりはしなきゃならないけど、先輩たちと一緒に過ごす日々は充実している。いくら戦争に勝ったからって、帝国に戻りたいとは思わない。だって覚えていないんだもの。レイラのこと以外はほとんど――。
(でも、レイラのことだけは覚えてる)
 どうして彼女のことだけ、とは、何度も考えた。たぶん、強い思いか心残りがあるんだろう。記憶の中にいるあたしの親友は、帝国に行けば見つかるんだろうか?

 ――幸せな記憶。あたしの親友だった、レイラという女の子。思い出そうとすればするほど、彼女との日々だけが蘇ってくる。
 例えば、趣味のショッピング。手が痛くなるほどたくさんの服やらなにやらを買い込んで、決まったカフェで休憩がてら時間を潰す。行きつけのカフェは居心地がよくて、話のタネは尽きない。いつまでもあの場所にいられそうだった。ヘルミト名物の「光る樹」を観に行った記憶もある。時間が止まったみたいな絶景に、二人で甘いため息をついた。レイラは英雄が好きだった。夢見がちな彼女は、あたしの知らない世界の人々についてたくさん教えてくれた。そんな楽しみの繰り返し。レイラの存在だけが、ずっと心の奥でひっかかっている。まさに彼女は、あたしにとっての、特別なんだ。

(あの子は帝国に、まだいるのかもしれない。そして、あたしが帝国にいた時間は、確かにあった)
 そう考えると、あたしが今どこにいようと、帝国と無関係である瞬間はないんだろう。一瞬たりとも。あたしを帝国に縛る鎖は、きっと消えない。鳥籠から出られない鳥のように。
24/33ページ
スキ