鳥籠の中で飛翔せよ
「それじゃ先輩、あたしは王都の門に行ってきますね」
「そっちはアリサに任せた。道はもうわかるよな? 気をつけろよ」
ギルドにすっかり馴染んだあたしは、アーロンさんに挨拶をして、本部のロビーから出ていった。
ボブの長さまで切り揃えた髪は、茶色オレンジのグラデーション。戦場で失ったらしい片目を隠す、おしゃれな眼帯にも慣れてきた。昔のあたしとは少し違う姿のようだけど、これはこれで気に入っている。
都立ギルドに所属する人々の主な仕事は、情報収集と魔獣退治だ。こまごました書類を整理して提出するより、駆け回って身体を動かす方が得意なので、あたしは魔獣退治の方に向かっていた。なんでも、厄介な狼魔獣の群れが、王都に向かう人を襲っているらしい。
「さってと、やりますか!」
門から王都の郊外に出ると、さっそく獣の唸り声がする。あたしは即座に、右手を触手に変化させた。触手の先を尖らせれば、思い通りに動かせる刃の完成だ。この不思議な体質のことは、まだ詳しく思い出せていない。帝国と関係あるらしいけれど……。どっちにしろ、使えるものは使うだけだ。
魔獣には悪いけど、これは仕事だ。弱点を的確に捉えてしまえば、魔獣の群れなんて怖くない。あっという間にバラバラになった魔獣を、対峙した証拠として持ち帰る手はずになっていた。専用の袋に、血の匂いで溢れた死骸を詰め込む。
つきり、と、頭が痛んだ。
(前にも、こういうことをしたような気が……)
そこであたしは考えるのをやめた。今は仕事中だし、なにより、昔のことは無理に思い出そうとしない、という約束だった。
――無理やり記憶を取り戻そうとすれば、頭や身体に大きなダメージを与えかねない。
初対面のとき不機嫌そうだった、紅い髪のひと――クリスさんがそう言うと、アーロンさんが勝手にこの掟を作ったのだった。
ふたりとも、けっこうあたしに優しい。ギルドの人に聞くと、初めての後輩で浮かれているんじゃないか、ということらしい。
「お二人は、仲がいいんですか? 本人に聞くと否定されるんですけど」
「あはは。よくケンカしてるからねえ。でも、あれは兄弟ゲンカみたいなものさ」
そう言うのは、先輩の先輩であるところのリックさんだ。髪の長い男の人で、背も高いからすぐに覚えた。足を折って座るその人は、二人を慈しむような眼で語る。
「そう、二人は兄弟みたいなんだよ」
このギルドの人たちは、あたしにはわからない事情を持っている。あたしだって、ひとには知られていない事情がある。……自分でさえ知らない事情もある。
レイラという親友。兵士だった立場。わかっているのはそれくらいだ。気にかかるのは、――あたしが使う触手は、元々自分のものだったのか、後から付け加えられたものだったのか、だ。
つまり、あたしは人間なのかどうか、その位置づけが知りたいのだ。
「そっちはアリサに任せた。道はもうわかるよな? 気をつけろよ」
ギルドにすっかり馴染んだあたしは、アーロンさんに挨拶をして、本部のロビーから出ていった。
ボブの長さまで切り揃えた髪は、茶色オレンジのグラデーション。戦場で失ったらしい片目を隠す、おしゃれな眼帯にも慣れてきた。昔のあたしとは少し違う姿のようだけど、これはこれで気に入っている。
都立ギルドに所属する人々の主な仕事は、情報収集と魔獣退治だ。こまごました書類を整理して提出するより、駆け回って身体を動かす方が得意なので、あたしは魔獣退治の方に向かっていた。なんでも、厄介な狼魔獣の群れが、王都に向かう人を襲っているらしい。
「さってと、やりますか!」
門から王都の郊外に出ると、さっそく獣の唸り声がする。あたしは即座に、右手を触手に変化させた。触手の先を尖らせれば、思い通りに動かせる刃の完成だ。この不思議な体質のことは、まだ詳しく思い出せていない。帝国と関係あるらしいけれど……。どっちにしろ、使えるものは使うだけだ。
魔獣には悪いけど、これは仕事だ。弱点を的確に捉えてしまえば、魔獣の群れなんて怖くない。あっという間にバラバラになった魔獣を、対峙した証拠として持ち帰る手はずになっていた。専用の袋に、血の匂いで溢れた死骸を詰め込む。
つきり、と、頭が痛んだ。
(前にも、こういうことをしたような気が……)
そこであたしは考えるのをやめた。今は仕事中だし、なにより、昔のことは無理に思い出そうとしない、という約束だった。
――無理やり記憶を取り戻そうとすれば、頭や身体に大きなダメージを与えかねない。
初対面のとき不機嫌そうだった、紅い髪のひと――クリスさんがそう言うと、アーロンさんが勝手にこの掟を作ったのだった。
ふたりとも、けっこうあたしに優しい。ギルドの人に聞くと、初めての後輩で浮かれているんじゃないか、ということらしい。
「お二人は、仲がいいんですか? 本人に聞くと否定されるんですけど」
「あはは。よくケンカしてるからねえ。でも、あれは兄弟ゲンカみたいなものさ」
そう言うのは、先輩の先輩であるところのリックさんだ。髪の長い男の人で、背も高いからすぐに覚えた。足を折って座るその人は、二人を慈しむような眼で語る。
「そう、二人は兄弟みたいなんだよ」
このギルドの人たちは、あたしにはわからない事情を持っている。あたしだって、ひとには知られていない事情がある。……自分でさえ知らない事情もある。
レイラという親友。兵士だった立場。わかっているのはそれくらいだ。気にかかるのは、――あたしが使う触手は、元々自分のものだったのか、後から付け加えられたものだったのか、だ。
つまり、あたしは人間なのかどうか、その位置づけが知りたいのだ。