鳥籠の中で飛翔せよ

 レイラがタクトとやらと二人で出かけた、その日の夜。彼女から通信が来た。
 ――タクト様がね、私に頼み事をしてくれたの。
 ――頼み事? 珍しいね?
 ――そう。いつも手伝ってもらったり、奢ってもらったりするだけの私に、初めてタクト様から。
 一拍置いて、レイラは絞り出すようにして言った。
 ――だからさ。この約束を果たしたら、私、告白しようと思って……。
 ――そっか。……がんばって。
 あたしはそれしか言えなかった。軍の人から離れてなんて、夢に恋する親友に言えるはずがない。通話を切ってから、あたしは目を伏せた。本当に言うべきことを、言い逃した気がしてならなかった。

 翌日のことだった。あたしは実験室で、いつものように実験に勤しんでいた。国のトップに近い軍人と、ただの学生。レイラの恋は異色な組み合わせにしかならない。二人の関係がひっかかって、誰かに話さずにはいられなくなった。

「……ってことがあったんです。軍人さんが、学生に頼み事なんてあるんですかね?」
 と、先輩の背中に聞いてみる。これでもグレイ先輩は、あたしの周辺で一番帝国軍に近いひとだ。軍の様子を知りたかった気持ちも少しはある。けれど先輩は、その全てを教えてはくれなかった。
「本来なら機密情報にあたるが――そうだな。軍本部では、開戦への動きが活発化している、とだけ言っておこうか」
「それ、頼み事と関係ありますか?」
「帝国軍がどういう思想か考えてみろ。まったく関係がないとは言い切れない」
「関係あるかもしれない、ってことです……?」
 なんだか、ものすごくいやな予感がした。タクトという人は軍本部の所属で、功績をあげたら偉い人になる。たしか前に、そんなことを言っていなかった? そこまですごい人が、わざわざ普通の学生であるレイラに近づいて何をさせようとしているの?
 あたしは通信機を取り出して、咄嗟にレイラと声を繋いだ。
「レイラ! 今どこ?」
 通信石がきらっと光って、レイラに言葉が伝わった。
「海辺の国の駅だよ。タクト様の使いがいらっしゃって、荷物を取りに来るんだって」
 普段の、そして最近の、浮かれたレイラだった。海辺の国。もう帝国の外だ。そんな遠いところに、何の用?
「荷物って? 中身はなんなの?」
「どうしたのセリカ、おかしいよ? タクト様の大事なものだから、中身なんて見れないよ」
 レイラは変わりない様子だ。どころか、恋の相手から与えられたミッションに少しわくわくしているみたいだった。あたしの必死さは、たぶん伝わってない。
「海辺の国って初めて来たけど、やっぱ人通りも多いのね。ここからじゃないと――えっ?」
 魔法が起動する音が聞こえた。通信石の光が消える。

 爆発音。悲鳴。途切れた通話。何が起こったか、あたしにはわかってしまった。
 レイラが運んでいたのは爆破魔法だ。何も知らない彼女の手元で、それはいきなり爆発して、レイラの通信機を壊し、通信が途絶えたのだ。
 ――最初から、止めておけばよかった。

「なんで。どうして……」
 タクトも結局変わらなかった。ヒトをモノみたいに扱う、帝国の軍人。戦争の道具として、レイラに魔法を運ばせたんだ。少しでも期待したあたしがバカだった。そう、あたしはバカだ。彼女を止めなかった。わかってた――わかってたのに!
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