鳥籠の中で飛翔せよ
「私はタクト様のために何ができるのかな」
いつものカフェで、レイラが珍しく浮かない顔をしている。でもその頬は薄赤く染まっていて、意中の人を想っているのは明白だ。つまり、あたしはレイラの恋愛相談に乗っている最中なのだ。
近頃、レイラは見るからにおしゃれになった。まず、髪のアレンジの種類が格段に増えた。今日はシニヨンにしたアップスタイルだ。全体的にひらりとした甘めのコーディネートも目を引く。淡いピンク色のスカートがポイントだろう。
レイラって、こんなにかわいい女の子だったっけ? いや、前は違った。機能性を重視した質素なスタイルだったはずだ。彼女を変えたのは、間違いなく、恋。
「そのタクトさんって人、軍人さんなんでしょ? 何か庶民のくらしについてとか聞かれたりしないの?」
「そういえば、兵器のことは一度だけ聞かれたかも」
兵器。物騒なフレーズが呼び起こすのは――軍の監視。
(まさか)
レイラは国家機密を見たかもしれない人間だ。あたしという兵器候補や軍事研究に使われた魔獣を。その件で聴取もされたはず。
恋の相手である軍人だって、レイラを見張りにきただけなのかも。だとしたら、この恋はきっと実らない。
「でも、そのときの食事も、タクト様が奢ってくれたんだよ。私、いつももらってばっかりで。だから、何かをして、返したいの! ねえセリカ、どうすればいい?」
気持ちはわかる。そういえば、あたしもグレイ先輩に大事なお礼をしていなかった。ブレスレットを直してもらったお礼。何が思いつくだろう。ヒトとしてのあたしの知識を総動員して、一般的に考えられるのは。
「手料理とか、プレゼントとかかなあ。相手の人の好きなものって知ってるの?」
「……そういえば、本以外には、あまり。料理は薄い味の方が好きって言ってたけど、それくらいかな」
レイラは思ったほど、恋の相手をよく知らないようだ。それはつまり、相手が明かしてないってことでもある。レイラはその隠された部分に、夢を詰めたまま恋をしている。
(相手が答えてくれるとは、思えない)
本当にその人がいいの? 軍の人だよ? なんてことは、聞ける空気じゃなかった。
「気持ちを込めたものなら、なんだって喜んでくれると思うよ」
常識的な意見で場をごまかす。あたしが知る限り、軍の関係者にはひどい人が多い。魔獣でレイラを死なせかけたあたし、ちょっと意地が悪くて動物実験にためらいのないグレイ先輩、そしてそれをあたしたちにやらせる上層部の人たち。
――レイラの恋が叶うとは、到底思えない。でも、そんなこと言えるはずがない。
「あ、そうだ、カフェ! このカフェを紹介したら、今度一緒に行こうかって言ってくれて。その日までに、なにかプレゼントを用意したくて」
レイラの恋語りは止まることを知らない。あたしはそれを止めることを知らない。
あたしや先輩を改造兵士の材料にしてるのも、同じ帝国軍なんだよ。だからやめて、もう軍のひとには関わらないで。きっと帝国軍は、あたしたちをモノとしか思ってない。
(なんて、言えるはずもない)
もしかしたらタクトっていう人は例外で、情に厚いのかもしれない。あたしはその可能性に賭けるしかない。
(どうかレイラだけは、こんなふうに扱わないで)
バケモノになりかけたあたしのことを、ヒトとして見てくれた優しい子。あたしは祈った。どうかあの子には、軍の手が及ばないように。
いつものカフェで、レイラが珍しく浮かない顔をしている。でもその頬は薄赤く染まっていて、意中の人を想っているのは明白だ。つまり、あたしはレイラの恋愛相談に乗っている最中なのだ。
近頃、レイラは見るからにおしゃれになった。まず、髪のアレンジの種類が格段に増えた。今日はシニヨンにしたアップスタイルだ。全体的にひらりとした甘めのコーディネートも目を引く。淡いピンク色のスカートがポイントだろう。
レイラって、こんなにかわいい女の子だったっけ? いや、前は違った。機能性を重視した質素なスタイルだったはずだ。彼女を変えたのは、間違いなく、恋。
「そのタクトさんって人、軍人さんなんでしょ? 何か庶民のくらしについてとか聞かれたりしないの?」
「そういえば、兵器のことは一度だけ聞かれたかも」
兵器。物騒なフレーズが呼び起こすのは――軍の監視。
(まさか)
レイラは国家機密を見たかもしれない人間だ。あたしという兵器候補や軍事研究に使われた魔獣を。その件で聴取もされたはず。
恋の相手である軍人だって、レイラを見張りにきただけなのかも。だとしたら、この恋はきっと実らない。
「でも、そのときの食事も、タクト様が奢ってくれたんだよ。私、いつももらってばっかりで。だから、何かをして、返したいの! ねえセリカ、どうすればいい?」
気持ちはわかる。そういえば、あたしもグレイ先輩に大事なお礼をしていなかった。ブレスレットを直してもらったお礼。何が思いつくだろう。ヒトとしてのあたしの知識を総動員して、一般的に考えられるのは。
「手料理とか、プレゼントとかかなあ。相手の人の好きなものって知ってるの?」
「……そういえば、本以外には、あまり。料理は薄い味の方が好きって言ってたけど、それくらいかな」
レイラは思ったほど、恋の相手をよく知らないようだ。それはつまり、相手が明かしてないってことでもある。レイラはその隠された部分に、夢を詰めたまま恋をしている。
(相手が答えてくれるとは、思えない)
本当にその人がいいの? 軍の人だよ? なんてことは、聞ける空気じゃなかった。
「気持ちを込めたものなら、なんだって喜んでくれると思うよ」
常識的な意見で場をごまかす。あたしが知る限り、軍の関係者にはひどい人が多い。魔獣でレイラを死なせかけたあたし、ちょっと意地が悪くて動物実験にためらいのないグレイ先輩、そしてそれをあたしたちにやらせる上層部の人たち。
――レイラの恋が叶うとは、到底思えない。でも、そんなこと言えるはずがない。
「あ、そうだ、カフェ! このカフェを紹介したら、今度一緒に行こうかって言ってくれて。その日までに、なにかプレゼントを用意したくて」
レイラの恋語りは止まることを知らない。あたしはそれを止めることを知らない。
あたしや先輩を改造兵士の材料にしてるのも、同じ帝国軍なんだよ。だからやめて、もう軍のひとには関わらないで。きっと帝国軍は、あたしたちをモノとしか思ってない。
(なんて、言えるはずもない)
もしかしたらタクトっていう人は例外で、情に厚いのかもしれない。あたしはその可能性に賭けるしかない。
(どうかレイラだけは、こんなふうに扱わないで)
バケモノになりかけたあたしのことを、ヒトとして見てくれた優しい子。あたしは祈った。どうかあの子には、軍の手が及ばないように。