鳥籠の中で飛翔せよ

「好きな人ができたの」
 思い切った様子で、レイラは頬を染めて言った。ショッピングの帰り、お気に入りのカフェでのことだった。
 あたしはスプーンを落としかけて、ギリギリで耐えた。冷静なふりをして聞き返す。
「リアルの?」
「そう」
 前触れのない打ち明け話。レイラは恋多き乙女ではあるけれど、今まで思いを寄せていたのはみんな歴史上の英雄ばかりだった。そのレイラが、今この時代の人を好きになるなんて。こんなことは初めてだ。
「どんな人?」
ミルクティーを飲みながら、自然な流れで聞いてみる。
「視察にきた軍人さん」
 うえ、と声に出しそうになった。反射をカフェオレでがぶりと飲み込む。軍にはいいイメージなんてない。たしかに、視察に来る人は前と比べて格段に増えた。けれど、まさかレイラが恋をするほど近くにいたとは。

「道案内のときに本のお話をしたら、意気投合して。次の視察のときにも、わざわざ会いに来てくれて……」
 なるほど、察するに趣味が似ているんだ。それもそうか、軍人だってヒトだ。恋に落ちることも、相手にアピールすることもあるだろう。あのいかつい服装を見ると気が重くなるのは、あたし特有の症状なのだ。
「その人、どんな感じなの?」
「童話の王子様みたいな」
 出た、ロマンチスト。
「うん、そうだろうね。で、性格はどんな感じなの?」
 二度手間になるけど、この面倒さは嫌いじゃない。夢を見るのは、レイラの本気だ。
「優しいっていうか紳士的っていうか。視察と全然関係ないような私の話も、頷いて聞いてくれて……」
「どこの人で、なんて名前?」
「フルネームは長いらしいんだけど、ファーストネームで呼んでいいって言ってたから……タクト様、って呼んでるの」
 薔薇色の頬は、今まで見たどのレイラよりも、赤く、花のようで、かわいらしかった。
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