鳥籠の中で飛翔せよ
日差しのやわらかいお昼前。この時間、だいたいレイラは図書館帰りに学食へ寄る。あたしはそわそわしながら、彼女を待ち伏せしていた。左手をそっと握る。
(大丈夫)
レイラは生きていて、必ずここに来る。そう信じて会いに来た。けれど、一度立ち止まってしまえば、追いついてきた不安が背中を這いずってくる。息切れとリズムをあわせた自分の心音がうるさい。
ぱたぱたと足音がした。歩く音だけでわかる。ついに彼女がやってきた。生きてはいたんだ、と安心すると、レイラは不思議そうに声をかけてくる。
「セリカ! こんなところでどうしたの?」
「レイラ……」
あたしは安心しつつ驚いた。恐ろしいものを見てしまっただろうに、レイラは普通に接してきた。まるで何もなかったかのように。でも、あたしは何かがあったことを知っている。そして、再びレイラと出会ってしまった以上、踏み込まなきゃならない。
「ねぇ……ねえレイラ、あのあと」
あたしが、触手を使って魔獣と戦った後。絞り出した声は勝手に震えて、頭の中に用意していた言葉は勝手に崩れていった。
「あのあと、何かあった……?」
沈黙――は、なかった。レイラがすぐに答えたからだ。
「ああ、魔獣が来た後? 偉そうな人が事情聴取に来たよ。私は何も見てないって言い張ったら、そのうち帰っていったけど」
「ええ?」
まさか本当に、その言い訳が通るのか。グレイ先輩の言った通り、軍はこのことを大きな事件にしたくないのかも。それか、レイラが昔から芯の強い子だったからか。どちらにせよ、レイラは軍には見逃された。
――でも、大事なのはもうひとつの方だ。あたしを、あたしの触手を、異常な魔獣を殺したさらに異常なあたしを、見たのかどうか。
「ねえ、レイラあのとき、見てた?」
「何を?」
「何をって、その」
平然と聞き返すレイラに、あたしは何も言えない。下手に言葉を与えたら、本当に知られちゃいけないことを教えてしまいそうだから。静かに俯くあたしに、でも、レイラはからっと笑ってくれた。
「セリカが何を隠しててもさ、私たちはいつものままだよ。まあ、流石に怖くて。ずっと伏せてたからちゃんとは見てないんだけどね」
「だって、あのとき酷い顔してたよ?」
「そりゃあ、魔獣に出会ったら誰だってあんな顔になるよ」
果たしてそれは優しい嘘か、真実なのか。あたしにはわからないけれど、それでいいんだと思った。しっかり向き合ってみれば、こんなに簡単に解決してしまったのだ。
「それよりさ、そろそろ『光る樹』の季節じゃない?」
レイラは例の騒動なんてどうってことなかったみたいに、あっさり話題を変えた。
前にも聞いたお祭りの時期が近づいてきていた。ヘルミト・アカデミアの近くには、大通りに有名な並木道がある。この季節になると、木の枝の輪郭が点々と光る。木々そのものが光るのではなく、枝に光の粒が乗っているように、木に沿って無数の小さな光が輝くのだ。決まった時期にしか見られない、幻想的な夜景。ヘルミト自慢の観光スポットでもある。
「一緒に見に行かない?」
「行きたい! いつの夜なら空いてる?」
「えっと、近いところだと……」
フツウの女の子と変わらない会話。あたしは無性にうきうきした。あんなことがあっても、あたしとレイラは友達のままだ。
――まだ、証明するには遠いけど。
珍しく、グレイ先輩と話がしたくなった。あたしはちゃんとヒトなんだ、認められたよ、と伝えたくなったのだ。
(大丈夫)
レイラは生きていて、必ずここに来る。そう信じて会いに来た。けれど、一度立ち止まってしまえば、追いついてきた不安が背中を這いずってくる。息切れとリズムをあわせた自分の心音がうるさい。
ぱたぱたと足音がした。歩く音だけでわかる。ついに彼女がやってきた。生きてはいたんだ、と安心すると、レイラは不思議そうに声をかけてくる。
「セリカ! こんなところでどうしたの?」
「レイラ……」
あたしは安心しつつ驚いた。恐ろしいものを見てしまっただろうに、レイラは普通に接してきた。まるで何もなかったかのように。でも、あたしは何かがあったことを知っている。そして、再びレイラと出会ってしまった以上、踏み込まなきゃならない。
「ねぇ……ねえレイラ、あのあと」
あたしが、触手を使って魔獣と戦った後。絞り出した声は勝手に震えて、頭の中に用意していた言葉は勝手に崩れていった。
「あのあと、何かあった……?」
沈黙――は、なかった。レイラがすぐに答えたからだ。
「ああ、魔獣が来た後? 偉そうな人が事情聴取に来たよ。私は何も見てないって言い張ったら、そのうち帰っていったけど」
「ええ?」
まさか本当に、その言い訳が通るのか。グレイ先輩の言った通り、軍はこのことを大きな事件にしたくないのかも。それか、レイラが昔から芯の強い子だったからか。どちらにせよ、レイラは軍には見逃された。
――でも、大事なのはもうひとつの方だ。あたしを、あたしの触手を、異常な魔獣を殺したさらに異常なあたしを、見たのかどうか。
「ねえ、レイラあのとき、見てた?」
「何を?」
「何をって、その」
平然と聞き返すレイラに、あたしは何も言えない。下手に言葉を与えたら、本当に知られちゃいけないことを教えてしまいそうだから。静かに俯くあたしに、でも、レイラはからっと笑ってくれた。
「セリカが何を隠しててもさ、私たちはいつものままだよ。まあ、流石に怖くて。ずっと伏せてたからちゃんとは見てないんだけどね」
「だって、あのとき酷い顔してたよ?」
「そりゃあ、魔獣に出会ったら誰だってあんな顔になるよ」
果たしてそれは優しい嘘か、真実なのか。あたしにはわからないけれど、それでいいんだと思った。しっかり向き合ってみれば、こんなに簡単に解決してしまったのだ。
「それよりさ、そろそろ『光る樹』の季節じゃない?」
レイラは例の騒動なんてどうってことなかったみたいに、あっさり話題を変えた。
前にも聞いたお祭りの時期が近づいてきていた。ヘルミト・アカデミアの近くには、大通りに有名な並木道がある。この季節になると、木の枝の輪郭が点々と光る。木々そのものが光るのではなく、枝に光の粒が乗っているように、木に沿って無数の小さな光が輝くのだ。決まった時期にしか見られない、幻想的な夜景。ヘルミト自慢の観光スポットでもある。
「一緒に見に行かない?」
「行きたい! いつの夜なら空いてる?」
「えっと、近いところだと……」
フツウの女の子と変わらない会話。あたしは無性にうきうきした。あんなことがあっても、あたしとレイラは友達のままだ。
――まだ、証明するには遠いけど。
珍しく、グレイ先輩と話がしたくなった。あたしはちゃんとヒトなんだ、認められたよ、と伝えたくなったのだ。