Order of Border
クロエの中で、ある計画が着々と進行していた。実験室を垣間見たあの日を思い出す。異形としての彼女が、あのとき初めてクロエの中で輪郭を持った。そして、同時に彼は、胸の内でその企てを育て始めたのだ。計画を実行に移すときなど来なければいい、とひそかに願ってはいたが、どうやらそうもいかないらしい。
サキは白衣姿のまま外出の準備をしていた。近頃よく見る一幕だ。彼女の買い出しはやけに長い。理由を尋ねてみると、本を選ぶのに時間がかかるのだという。だがそれだけではない、とクロエはあたりをつけていた。路地裏の闇に紛れて、生物や人間の臓器や血やら、怪しげな素材を取引しているに違いない。
「お前、なにか欲しい本はあるか」
大きな鞄を肩にかけ、眼鏡の女は振り向いた。対する男は組んだ手に顎を乗せて思案する。
「……そうだな、じゃあ小説の資料を頼もうか。創樹千年前後のドゥサージュ王国の情報があるものならなんでもいい」
書名を言わず、曖昧に頼んだのはわざとだ。今日に限ってサキは早く帰ってくる気がしていた、その予防策だ。急がれては困るのだ。
「あんたはどんな本を買うんだ」
「お前の察する通りだ」
ということは、人工生命に関する本で間違いないだろう。クロエは相手にわかるように舌打ちをした。これさえなければあの計画など必要なかったのに。
サキはよくやるように悪態を聞き流し、そのまま鞄を抱えて隠れ家を出て行った。挨拶もせずに。
ひとり残されたクロエは、違和感のないやりとりを思い返す。
――察する通りだ、なんて。
(呑気なもんだな)
自分も相手も。サキは不死者の存在を当たり前に感じていたし、クロエは飄々としながらも冷静すぎた。「計画」を覆うのに十分なほど、常の通りこともなげだった。
(おれはこれから、この女を裏切るというのに)
サキは白衣姿のまま外出の準備をしていた。近頃よく見る一幕だ。彼女の買い出しはやけに長い。理由を尋ねてみると、本を選ぶのに時間がかかるのだという。だがそれだけではない、とクロエはあたりをつけていた。路地裏の闇に紛れて、生物や人間の臓器や血やら、怪しげな素材を取引しているに違いない。
「お前、なにか欲しい本はあるか」
大きな鞄を肩にかけ、眼鏡の女は振り向いた。対する男は組んだ手に顎を乗せて思案する。
「……そうだな、じゃあ小説の資料を頼もうか。創樹千年前後のドゥサージュ王国の情報があるものならなんでもいい」
書名を言わず、曖昧に頼んだのはわざとだ。今日に限ってサキは早く帰ってくる気がしていた、その予防策だ。急がれては困るのだ。
「あんたはどんな本を買うんだ」
「お前の察する通りだ」
ということは、人工生命に関する本で間違いないだろう。クロエは相手にわかるように舌打ちをした。これさえなければあの計画など必要なかったのに。
サキはよくやるように悪態を聞き流し、そのまま鞄を抱えて隠れ家を出て行った。挨拶もせずに。
ひとり残されたクロエは、違和感のないやりとりを思い返す。
――察する通りだ、なんて。
(呑気なもんだな)
自分も相手も。サキは不死者の存在を当たり前に感じていたし、クロエは飄々としながらも冷静すぎた。「計画」を覆うのに十分なほど、常の通りこともなげだった。
(おれはこれから、この女を裏切るというのに)